日本を代表するバイオリニストの一人、千住真理子さん。彼女が奏でる美しい音色は多くの人々を魅了し続けていますが、その手に握られているバイオリンが、実はとてつもない価値を持つ「伝説の楽器」であることをご存じでしょうか。
彼女の愛器は、最高級バイオリンの代名詞とも言えるストラディバリウスの中でも、特に希少価値が高いとされる「デュランティ」です。そのお値段は、なんと数億円とも噂されています。
なぜ、たった一つの楽器にそれほどの値段がつくのでしょうか。そして、数百年の時を超えて千住さんの元へとやってきたこの楽器には、どのようなドラマが隠されているのでしょうか。今回は、千住真理子さんのバイオリンの驚きの価格と、それにまつわる運命的なエピソードについて、わかりやすく解説していきます。
千住真理子さんの愛用バイオリンの値段はいくら?伝説のストラディバリウス「デュランティ」

千住真理子さんが愛用しているバイオリンは、世界的に有名なストラディバリウスの一つで、「デュランティ」という名前が付けられています。テレビやコンサートで彼女が演奏する姿を見るたびに、「あのような素晴らしい楽器はいったいいくらするのだろう」と気になっている方も多いはずです。ここでは、その気になる価格や、なぜそれほど高額なのかについて詳しく見ていきましょう。
愛器「デュランティ」の推定価格と市場価値
千住真理子さんが所有するストラディバリウス「デュランティ」の正確な購入価格は、公表されていません。しかし、専門家の見解や当時の相場、そして過去のインタビューでの発言などを総合すると、その価格は推定で2億円から3億円、あるいはそれ以上ではないかと言われています。一般的な感覚からすると、家が何軒も建つような金額であり、まさに桁違いの世界です。
この楽器が購入されたのは2002年のことですが、ストラディバリウスの価格は年々上昇し続けています。そのため、現在もし市場に出回ることがあれば、購入当時よりもさらに高い価値がついている可能性が非常に高いでしょう。単なる楽器という枠を超え、歴史的な美術品としての資産価値も兼ね備えているのが、このクラスのバイオリンの特徴です。千住さん自身も、この楽器を手に入れることは人生をかけた大きな決断だったと語っています。
なぜそこまで高額なのか?ストラディバリウスの価値基準
ストラディバリウスがこれほどまでに高額な理由は、その希少性と音色の素晴らしさにあります。アントニオ・ストラディバリという天才的な職人が製作した楽器は、約300年経った現代の技術をもってしても再現できないと言われるほどの完成度を誇ります。現存する数は世界で約600挺ほどしかなく、その中でも保存状態が良いものや、製作された時期が良いものはさらに価値が上がります。
特に1700年から1720年頃は「黄金期」と呼ばれ、最も質の高い楽器が作られた時期とされています。千住さんの「デュランティ」は1716年製であり、まさにこの黄金期の真っただ中に作られた最高傑作の一つです。さらに、誰が所有していたかという「来歴」も価格に大きく影響します。王侯貴族や著名な演奏家が所有していた記録がはっきりしているものほど、信用と価値が高まるのです。
他の著名バイオリニストの楽器との価格比較
バイオリンの価格を知る上で、他の有名な演奏家が使用している楽器と比較してみると、その相場感がよりわかりやすくなります。例えば、同じく日本で有名な高嶋ちさ子さんが所有するストラディバリウス「ルーシー」は、約2億円で購入されたと言われています。また、世界的なバイオリニストである葉加瀬太郎さんもストラディバリウスを所有していますが、これらはやはり億単位の価格で取引されるのが一般的です。
さらに上を見ればきりがありません。過去には「レディ・ブラント」というストラディバリウスが、オークションで約12億円(当時のレート)で落札されたこともあります。また、博物館に保管されている「メシア」という楽器は、20億円以上の価値があるとも噂されています。千住さんの「デュランティ」も、これらトップクラスの名器たちと肩を並べるほどの歴史的価値と音色を持つ、極めて特別な存在なのです。
購入を決断した背景と覚悟
数億円という金額は、たとえ著名なバイオリニストであっても、簡単に支払えるものではありません。千住真理子さんが「デュランティ」を購入する際にも、相当な覚悟が必要でした。彼女は当時、自身の演奏活動においてさらなる高みを目指しており、そのためには今の楽器ではなく、より表現力の高いパートナーが必要だと感じていました。
しかし、提示された金額はあまりにも高額でした。それでも彼女が購入を決意したのは、「この楽器を逃したら、二度と巡り会えないかもしれない」という強い直感があったからです。自宅や財産を整理し、さらには家族の協力も得て資金を工面したといいます。単に高い買い物をしたという話ではなく、これからの音楽人生のすべてをこの楽器と共に歩むという、芸術家としての凄まじい決意があったのです。
300年間眠っていた幻の名器「デュランティ」とは?

千住真理子さんのバイオリンが特別なのは、単に値段が高いからだけではありません。「デュランティ」には、他のストラディバリウスにはない非常に珍しい歴史があります。それは、約300年もの長い間、ほとんど誰にも演奏されることなく、ひっそりと眠り続けていたということです。ここでは、その数奇な運命について掘り下げていきます。
製造から現在までの歴史と「デュランティ」の由来
「デュランティ」が製作されたのは1716年。製作者であるアントニオ・ストラディバリが72歳の頃で、彼の技術が円熟の極みに達していた時期です。この楽器は完成後、すぐにローマ教皇クレメンス14世の元へと渡りました。その後、教皇が亡くなると、側近であったフランスの貴族・デュランティ家が譲り受けることになります。この家名が、現在の楽器の愛称「デュランティ」の由来となっています。
その後、デュランティ家で約200年間保管され、20世紀に入ってからはスイスの裕福な公爵家の手に渡りました。驚くべきことに、これらの所有者たちは楽器をコレクションとして大切に保管するだけで、演奏家としてステージで弾くことはほとんどありませんでした。このように、権力者や富豪たちの宝物庫の中で大切に守られ続けてきたことが、この楽器の運命を決定づけました。
300年間誰にも弾かれなかった空白の期間の謎
通常、バイオリンなどの弦楽器は、優れた演奏家に弾き込まれることで音色が育っていくと言われています。しかし、「デュランティ」はその逆の道を歩みました。約300年間という途方もない歳月を、ほとんど音を出すことなく眠って過ごしたのです。これはストラディバリウスの中でも極めて異例なケースであり、「眠れる美女」や「幻の名器」と呼ばれる所以でもあります。
なぜこれほど長い間、演奏されなかったのでしょうか。それは、所有者たちがこの楽器を神聖なものとして扱い、傷つくことを恐れて門外不出にしていたからだと言われています。結果として、多くのストラディバリウスが演奏による摩耗や修復を繰り返している中で、「デュランティ」だけは製作された当時の姿を奇跡的に留めることになりました。この「空白の期間」が、現代において千住真理子さんという演奏家と出会うための準備期間だったのかもしれません。
他のストラディバリウスとは異なる独特の音色と特徴
長い眠りから覚めた「デュランティ」の音色は、他のストラディバリウスとは一線を画すと言われています。多くの古楽器は、長年の演奏によって木材が振動しやすくなり、明るく開放的な音になる傾向があります。しかし、「デュランティ」は弾き込まれていなかったため、最初は音が硬く、非常に扱いづらい楽器でした。しかし、その奥底には圧倒的なパワーと深みのある響きが秘められていたのです。
千住さんは、この楽器の音を「人間的な声」と表現することもあります。甘く優しいだけでなく、時には厳しく、あるいは悲痛な叫びのような音さえ奏でることができます。300年前の空気をそのまま閉じ込めたような純粋さと、まだ誰にも染まっていない無垢な響き。それが、現代のホールで解き放たれたとき、聴衆の心に直接訴えかけるような独特の存在感を生み出しているのです。
千住真理子さんとデュランティの運命的な出会い

世界中にコレクターがいる中で、なぜ日本人の千住真理子さんがこの貴重な楽器を手にすることができたのでしょうか。そこには、まるで映画のようなドラマチックな経緯がありました。お金があれば買えるというものではなく、楽器が持ち主を選んだとも言える、運命的な出会いのエピソードをご紹介します。
運命を変えた一本の電話と試奏の瞬間
2002年、千住さんの元に一本の電話が入ります。それは、長い間行方が分からなくなっていた幻のストラディバリウス「デュランティ」が売りに出されるという知らせでした。所有していたスイスの富豪が亡くなり、遺言によって「プロの演奏家にのみ譲る」という条件が出されたのです。世界中のバイオリニストやディーラーが色めき立つ中、千住さんにもオファーが届いたのは奇跡的なことでした。
すぐに現地へ飛んだ千住さんは、厳重な保管庫の中で初めてデュランティと対面します。ケースを開けた瞬間、そのあまりの美しさに息をのんだそうです。そして実際に弓を当てて音を出した瞬間、全身に電流が走るような衝撃を受けました。「この楽器は生きている」「私が弾かなければならない」という確信めいた直感が、彼女の心を強く揺さぶったのです。それはまさに、運命の出会いでした。
「弾く」のではなく「選ばれた」感覚とは
高額な名器の売買では、通常、誰が最も高い金額を出すかが注目されます。しかし、今回のケースでは「楽器との相性」も重視されました。仲介者たちは、千住さんがデュランティを弾いたときの音色を聴き、その響きが特別であることを認めたのです。千住さん自身も、自分が楽器を選んでいるというよりは、楽器の方から「私を弾いてごらん」と語りかけられ、試されているような感覚を覚えたと語っています。
300年間眠っていた楽器が、目を覚ます相手として千住さんを選んだ。そう言っても過言ではないほど、二者の引き合わせは自然で、かつ必然的なものでした。多くのライバルがいた中で、最終的に千住さんの手元に来ることになったのは、金額以上の「音楽的な結びつき」が評価された結果だったのかもしれません。演奏家にとって、これほど名誉なことはありません。
購入を決意させた決定的な要因
素晴らしい楽器であることは間違いありませんでしたが、購入には莫大な資金が必要でした。千住さんは当初、その金額の大きさに躊躇しました。しかし、試奏したときの音色が耳から離れず、夜も眠れないほど悩み続けました。「もしこの楽器を手放してしまったら、バイオリニストとしての自分はここで終わってしまうかもしれない」という焦燥感すらあったといいます。
最終的な決断の決め手となったのは、「今の自分を超えたい」という強い向上心でした。これまでの演奏スタイルに限界を感じていた彼女にとって、デュランティは新しい世界への扉を開くための唯一の希望に見えたのです。リスクを負ってでも、芸術家として成長するためにこの楽器が必要だという強い思いが、購入への最後の一歩を踏み出させました。
家族や周囲の反応とサポート
この大きな決断を支えたのは、家族の存在でした。特に兄であり作曲家の千住明さんは、妹の情熱を理解し、資金調達のために奔走してくれたそうです。「家を売ってでも買うべきだ」といった極端な話が出るほど、家族会議は真剣そのものでした。また、母の文子さんも、娘が芸術家として生きる覚悟を決めたことを尊重し、全面的にバックアップしました。
周囲の人々の理解と協力がなければ、この購入劇は成立しなかったでしょう。千住家全体が、真理子さんの才能とデュランティの可能性を信じていたからこそ実現したのです。このエピソードは、単なる楽器購入の話を超えて、家族の絆と芸術への深い愛情を感じさせる温かい物語として、ファンの間で語り継がれています。
デュランティを手に入れてからの変化と苦悩

念願のストラディバリウスを手に入れた千住さんですが、それはハッピーエンドではなく、新たな苦難の始まりでもありました。300年間眠っていた楽器は、そう簡単には心を開いてくれなかったのです。ここでは、名器を弾きこなすまでの壮絶な闘いと、それによってもたらされた変化について見ていきます。
名器を弾きこなすまでの壮絶な闘い
デュランティを手にした当初、千住さんはその扱いに大変苦労しました。長い間演奏されていなかったため、木材が振動することに慣れておらず、思ったような音が出なかったのです。千住さんは当時のことを「まるで言うことを聞かない猛獣のようだった」と振り返っています。自分の技術が通用せず、楽器に拒絶されているような感覚に陥ることもありました。
それでも彼女は諦めず、毎日必死に楽器と向き合いました。弾き方を変え、弓の圧力を調整し、楽器が気持ちよく鳴るポイントを探り続けました。それはまさに、眠っていた楽器の目を覚まさせるための格闘でした。数ヶ月、数年と弾き続けるうちに、少しずつデュランティは心を開き始め、他にはない深い響きを奏でてくれるようになったのです。
演奏スタイルや音楽観への影響
デュランティとの出会いは、千住さんの演奏スタイルを劇的に変化させました。以前の彼女は、情熱的で力強い演奏が持ち味でしたが、この楽器を手にしてからは、より繊細で色彩豊かな表現が可能になりました。デュランティが持つ多彩な音のパレットを引き出すために、彼女自身の技術も磨かれていったのです。
また、音楽に対する考え方も変わりました。「自分が弾く」という意識から、「楽器の声に耳を傾け、それを届ける」という意識へと変化したそうです。楽器が持つ歴史や魂のようなものを感じながら演奏することで、音楽に深みと説得力が増しました。デュランティは単なる道具ではなく、共に音楽を創り上げる対等なパートナーとなったのです。
メンテナンスや管理の難しさと費用
数億円の楽器を所有するということは、その管理にも多大な責任と費用が伴います。ストラディバリウスは非常にデリケートなため、温度や湿度の管理には細心の注意が必要です。千住さんは、自宅の保管部屋の環境を常に一定に保ち、移動中も肌身離さず持ち歩いています。飛行機に乗る際は、楽器のために座席をもう一つ確保することもあるほどです。
定期的なメンテナンスも欠かせません。世界最高峰の職人に調整を依頼するため、その費用も高額になります。また、万が一のための保険料も莫大です。名器を持つということは、演奏以外の部分でも多くのエネルギーとコストを捧げ続けることを意味します。それでも千住さんは、この楽器を守り、次の世代へと受け継ぐことが自分の使命だと考えています。
バイオリンの値段はどう決まる?価格の仕組みを解説

千住さんのバイオリンのように、数億円もの値がつく楽器がある一方で、数万円で買えるバイオリンも存在します。この価格の差は一体どこから来るのでしょうか。最後に、バイオリンの値段が決まる仕組みについて、いくつかのポイントに分けて解説します。
製作年代と製作者によるランク付け
バイオリンの価格を最も大きく左右するのは、「誰が」「いつ」作ったかという点です。アントニオ・ストラディバリやグァルネリ・デル・ジェスといった17〜18世紀のイタリア・クレモナ地方の名工が作った楽器は「オールドバイオリン」と呼ばれ、別格の扱いを受けます。彼らの作品は骨董品としての価値も高く、数千万円から数億円で取引されます。
その次に価値が高いのが、19世紀から20世紀初頭に作られた「モダンバイオリン」です。こちらも有名な製作者のものは数百万円から数千万円になります。一方、現代の職人が作る「新作バイオリン」は、数十万円から数百万円程度が一般的です。このように、製作者のネームバリューと作られた時代によって、基本的な価格帯が決まってくるのです。
保存状態と修復歴が価格に与える影響
どれほど有名な製作者の楽器であっても、ボロボロの状態では価値が下がります。特に重要なのが、オリジナルのニスがどれくらい残っているか、木材に致命的な割れがないか、という点です。過去にどのような修復が行われたかも詳しくチェックされます。適切な修復であれば問題ありませんが、雑な修理がされていると評価は大きく下がります。
千住さんの「デュランティ」が極めて高額なのは、300年前の楽器とは思えないほど保存状態が良いからです。大きな修復歴が少なく、ストラディバリウスが作った当時の姿を色濃く残している点は、価格を跳ね上げる大きな要因となります。このように、健康状態が良い楽器ほど、高値で取引される傾向にあります。
来歴(プロヴナンス)の重要性
「誰が持っていたか」という履歴書のようなものを「プロヴナンス」と呼びます。有名な演奏家が愛用していた、王族が所有していた、といった記録がはっきりしている楽器は、それだけで付加価値がつきます。来歴が明確であることは、その楽器が本物であるという証明にもなり、偽物をつかまされるリスクが減るため、安心して高額な取引ができるのです。
逆に、出所が不明な楽器は、たとえ音が良くても価格は伸び悩みます。デュランティの場合、ローマ教皇から貴族へと渡り、ずっと大切に保管されてきたという完璧な来歴があります。これが「由緒正しい名器」としてのブランド力を高め、価格をさらに押し上げているのです。
現代のバイオリン市場と投資としての側面
近年、高級バイオリンは「実物資産」としての側面も注目されています。金や不動産のように、時間が経っても価値が下がりにくく、むしろ上がり続ける傾向があるため、投資目的で購入する富裕層や財団も増えています。これにより、相場全体が上昇し、演奏家個人が購入するのが難しくなっているという現状もあります。
しかし、本来バイオリンは弾かれてこそ輝くものです。投資家が金庫にしまっておくのではなく、千住さんのように一流の演奏家が手に入れ、その音色を多くの人に届けてくれることは、楽器にとっても音楽ファンにとっても、最も幸せな形と言えるのではないでしょうか。
まとめ:千住真理子のバイオリンの値段が示す芸術への情熱
千住真理子さんが愛用するバイオリン、ストラディバリウス「デュランティ」の値段は、推定で数億円にも上ります。しかし、その金額の裏には、単なる高級品という言葉では片づけられない、深い歴史と物語がありました。300年もの間眠り続けていた幻の名器が、千住さんという運命の相手と出会い、再びその美しい音色を世界に響かせているのです。
家が買えるほどの高額な資金を投じてこの楽器を手に入れた背景には、「もっと素晴らしい音楽を届けたい」という、千住さんの並々ならぬ情熱と覚悟がありました。そして、扱いづらい楽器と格闘し、対話を重ねることで、今の感動的な演奏が生まれています。
私たちが彼女の演奏を聴くとき、それは単に高価な楽器の音を聴いているだけではありません。300年の時を超えた職人の魂と、それを蘇らせた一人のバイオリニストの人生そのものを聴いているのです。コンサートやテレビで千住真理子さんの演奏を耳にする機会があれば、ぜひその「数億円の音色」の奥にあるドラマにも思いを馳せてみてください。


