バイオリンの楽譜を開くと、音符以外にもたくさんの記号やイタリア語が並んでいることに驚くかもしれません。「これってどうやって弾くの?」「どんな音を出せばいいの?」と迷ってしまうことも多いはずです。バイオリンには、弓を使う右手の技術から、指を動かす左手のテクニックまで、数え切れないほどの奏法が存在します。
それぞれの用語が持つ意味を正しく理解することは、作曲家が意図した音楽表現に近づくための第一歩です。この記事では、初心者の方がまず覚えるべき基本用語から、上級者が使うような特殊な奏法まで、幅広く丁寧に解説していきます。言葉の意味だけでなく、どのような音色を目指すべきかも合わせて紹介しますので、ぜひ日々の練習の参考にしてください。
バイオリン奏法・用語の基礎知識:まずはここからスタート

バイオリンを演奏する上で、避けては通れない最も基本的な用語たちです。これらは楽譜に頻繁に登場するだけでなく、レッスンの現場でも先生が毎日のように口にする言葉ばかりです。まずはこれらのキーワードを確実にマスターして、バイオリンの世界への第一歩を踏み出しましょう。
アルコ (Arco)
「アルコ」とは、イタリア語で「弓」を意味する言葉ですが、楽譜上では「弓を使って弾く」という指示になります。バイオリンは基本的に弓で演奏する楽器ですが、指で弦をはじく「ピチカート」という奏法のあとに、通常の弾き方に戻る際、必ずこの「Arco」という文字が書かれています。
もしピチカートの後にこの指示を見落としてしまうと、ずっと指ではじき続けてしまうことになりかねません。特にオーケストラやアンサンブルでは、瞬時に奏法を切り替える必要があるため、非常に重要なサインとなります。楽譜に「Arco」が出てきたら、瞬時に弓を構え直し、弦の上に毛を乗せる準備を整えてください。
初心者のうちは、ピチカートからアルコへの切り替えで弓を持ち直すのに時間がかかることがあります。右手の小指や親指の位置がずれないよう、スムーズに移行する練習を繰り返すことが大切です。アルコの指示は、単に「弾く」だけでなく、「歌うような音色に戻る」合図だと捉えると、より音楽的な演奏につながります。
ピチカート (Pizzicato)
「ピチカート」は、弓を使わずに指で弦をはじいて音を出す奏法です。楽譜では「Pizz.」と略して書かれることが一般的です。バイオリンの鋭い音色とは対照的に、ポロンという可愛らしく減衰していく音が特徴で、楽曲に軽やかさやリズム感を与えます。
基本的には、弓を右手の手のひらの中に握り込み、人差し指の腹を使って弦を横にはじきます。このとき、爪が当たらないように注意し、指の肉厚な部分でしっかりと弦を捉えることが、豊かな響きを作るコツです。はじく位置は指板の上が一般的ですが、曲の雰囲気によっては少し駒寄りをはじくこともあります。
ピチカートは簡単なように見えて、実は奥が深い奏法です。はじく瞬間のスピードや、弦をリリースする方向によって音質が大きく変わります。また、和音をはじく際などは、左手の押さえが甘いと音がすぐに消えてしまうため、左手の指先により一層の圧力をかける必要があります。美しい余韻を残すことを意識してみましょう。
ダウンボウとアップボウ (Down Bow / Up Bow)
バイオリンの弓を動かす方向を示す最も基本的な記号です。「ダウンボウ(下げ弓)」は、弓の元(手元側)から先に向かって引く動作で、コの字型の記号(Π)で表されます。一方、「アップボウ(上げ弓)」は、弓の先から元に向かって押す動作で、V字型の記号(V)で表されます。
一般的に、ダウンボウは腕の重みを乗せやすく、強い音や拍の頭(強拍)に適しています。アップボウは、クレッシェンド(だんだん強く)を表現したり、弱拍を演奏したりするのによく使われます。この上げ下げのルール(ボーイング)を守ることは、リズム感を整え、他の奏者と動きを合わせるために不可欠です。
初心者のうちは、ダウンとアップで音の大きさや音色が変わってしまいがちです。特にアップボウで弓の元に戻ってきたとき、力が入りすぎて音が潰れてしまうことがよくあります。どちらの方向でも均一な音が出せるように、開放弦を使ったロングトーンの練習を重ねることが上達への近道です。
重音奏法 (Double Stops)
「重音(じゅうおん)」とは、2つ以上の弦を同時に弾いて和音を出す奏法です。バイオリンは単旋律を弾く楽器というイメージが強いですが、隣り合う弦を同時にこすることで、厚みのあるハーモニーを奏でることができます。3つの音や4つの音を同時に鳴らすこともあり、これを「和音奏法」と呼ぶこともあります。
重音をきれいに響かせるためには、左手の指の形と右手の弓の角度が非常に重要になります。左手は、隣の弦に指が触れないように高く保ち、正確な音程で2箇所を同時に押さえなければなりません。少しでも音程がずれると、「うなり」が生じて汚い響きになってしまうため、高い精度が求められます。
右手に関しては、2本の弦に均等に圧力をかける繊細なコントロールが必要です。どちらか一方の音が大きくなりすぎないよう、弓の角度を厳密に調整します。3音以上の和音の場合は、一度に全ての弦を鳴らすことが物理的に難しいため、下の2本から上の2本へと素早く移弦させて、あたかも同時に鳴っているかのように響かせます。
弓を使う右手の基本奏法:音のつながりと発音

バイオリンの音色は、右手の弓使い(ボウイング)によって決まると言っても過言ではありません。ここでは、音をどのようにつなげるか、あるいは切るかといった、基本的な発音に関わる奏法を紹介します。これらを使い分けることで、演奏にメリハリと表情が生まれます。
デタシェ (Détaché)
「デタシェ」はフランス語で「切り離された」という意味を持ちますが、実際にはスタッカートのように短く切るわけではありません。音符一つひとつに対して弓を返し、音と音の間を適度に区切って演奏する、バイオリンで最も基本的かつ使用頻度の高い奏法です。
特に指示がない音符が並んでいる場合、基本的にはこのデタシェで演奏します。重要なのは、弓を返す瞬間に音が途切れたり、アクセントがつきすぎたりしないことです。滑らかでありながら、一音一音が明瞭に聞こえるような発音を目指します。弓を返すその一瞬まで、均一な速度と圧力を保つことが美しいデタシェの鍵となります。
練習する際は、弓の真ん中、元、先など、様々な部分を使ってデタシェができるようにしましょう。速いパッセージでは弓の中央付近で小刻みに、朗々とした旋律では弓全体を使って大きく、というように使い分けることで、表現の幅がぐっと広がります。
レガート (Legato)
「レガート」は、音と音を滑らかにつなげて演奏する奏法です。楽譜上では、複数の音符にまたがる弧線(スラー)で示されます。このスラーがかかっている間は、弓を返さずに一弓(ひとゆみ)で複数の音を弾ききります。
レガートの難しさは、左手の指が変わっても、右手の弓の動きを一定に保ち続ける点にあります。指を叩く衝撃や弦を移動する動きが弓に伝わってしまうと、音がガタついて滑らかさが損なわれてしまいます。右手はあくまで水平に、氷の上を滑るようなイメージで動かし続けることが大切です。
また、一弓でたくさんの音を弾く場合、弓の配分(ペース配分)を考える必要があります。最初に弓を使いすぎてしまうと、最後の音が足りなくなってしまいます。フレーズ全体を見渡し、どの音でどれくらいの弓を使うかを計算しながら演奏するのは、バイオリニストの重要なスキルのひとつです。
スタッカート (Staccato)
「スタッカート」は、音符の長さを短く切って演奏する奏法です。楽譜では音符の上や下に小さな点(・)が記されます。デタシェよりもはっきりと音を分離させ、軽快さや歯切れの良さを表現する際に用いられます。
バイオリンでスタッカートを演奏する場合、弓を弦に置いたまま音を止める方法と、弓を弦から離す方法がありますが、基本のスタッカートは弦に吸い付かせたまま、弓の圧力を抜くことで音を切ります。一弓の中で連続してスタッカートを行う「スラースタッカート」という技術もあり、これは非常に高度な右手のコントロールを要します。
初心者が陥りやすいミスとして、音を短くしようとするあまり、雑な音になってしまうことがあります。短くても「芯のある音」を出すためには、発音の瞬間にしっかりと弦を捉え、素早く力を抜くという動作が必要です。歯切れ良さと美しい音色を両立させることが目標です。
マルテレ (Martelé)
「マルテレ」はフランス語で「ハンマーで打たれた」という意味を持つ奏法です。その名の通り、音の出だしに強いアクセントをつけ、その直後に圧力を抜いて音価を保つ、あるいは減衰させる弾き方です。楽譜では、くさび形の記号(▼)や、スタッカートにアクセント記号が組み合わさった形で書かれることが多いです。
この奏法の特徴は、音を出す「前」にあります。弓を動かす前に、人差し指でぐっと弦に圧力をかけ(噛ませ)、その状態で一気に弓を動かします。すると「カッ!」という爆発的な発音が生まれます。発音した瞬間に圧力を解放することで、鋭く力強い音が響きます。
マルテレは、一つ一つの音を明確に強調したい場面や、力強い行進曲のようなフレーズで効果を発揮します。連続して行うと右手が疲れやすいため、脱力と緊張のコントロールを身につける良い練習にもなります。弓の元の方で演奏すると、より鋭いアタックが得やすくなります。
弓を跳ねさせる華やかな奏法:スピッカートやソティエ

バイオリンの魅力のひとつに、弓が弦の上で軽やかに跳ねる奏法があります。これらは視覚的にも華やかで、演奏に躍動感を与えます。ここでは、弓の弾力性を利用した「飛ばす」テクニックについて解説します。
スピッカート (Spiccato)
「スピッカート」は、弓を弦の上でコントロールして跳ねさせる奏法です。通常、弓の中央から少し元寄りの、バランスが取りやすい位置を使用します。手首を柔らかく使い、V字を描くように弓を落として弾ませることで、軽やかで粒立ちの良い音を生み出します。
この奏法のポイントは、弓が自然に跳ねようとする場所(バランスポイント)を見つけることです。弓によってその位置は微妙に異なるため、自分の弓の特性を知ることが大切です。テンポが遅い場合は、右手の小指で弓の重さをコントロールしながら、人為的に跳ねさせる必要があります。
練習では、最初は弦から弓を離さずに手首だけで短く弾く動作を行い、徐々に弦から離れる動きを加えていくと感覚をつかみやすくなります。モーツァルトの交響曲や軽快な楽曲で頻繁に登場するため、中級者以上には必須のスキルと言えるでしょう。
ソティエ (Sautillé)
「ソティエ」は、速いテンポの連続した音符で使われる、自然な跳ね弓奏法です。スピッカートと似ていますが、ソティエの場合は奏者が意図的に「跳ねさせる」のではなく、速いデタシェを行っているうちに、弓の弾力によって「勝手に跳ねる」状態を利用します。
この奏法では、弓の重心付近(通常は真ん中より少し上)を使い、非常に小さな幅で素早く弓を動かします。手首の力を完全に抜き、弓の木のスティック部分が自然に振動するのを妨げないようにするのがコツです。成功すると、弦の上を弓が細かくバウンドし、ざらつきのないクリアな速弾きが可能になります。
ソティエを習得するには、まず弦に吸い付いた状態での速いデタシェ(小刻みなボウイング)を練習し、そこから徐々に圧力を抜いていくアプローチが有効です。「弓が勝手に踊る」感覚をつかむまでには時間がかかりますが、習得できればパガニーニのような超絶技巧曲も夢ではありません。
メモ:スピッカートとソティエの境界線は曖昧なこともありますが、一般的に「コントロールして飛ばす」のがスピッカート、「速さで自然に飛ぶ」のがソティエと区別されます。
リコシェ (Ricochet)
「リコシェ」は、水切り遊びのように、一度のダウンボウ(またはアップボウ)で弓を投げつけ、その反動で数回バウンドさせて複数の音を弾く特殊奏法です。「投げ弓」とも呼ばれます。ロッシーニの『ウィリアム・テル序曲』などで聞かれる、タタタタッというリズミカルな音が有名です。
この奏法を成功させるには、弓を落とす高さと場所、そして落とす瞬間の弓の水平な角度が重要です。高く落としすぎると音が暴れてしまい、低すぎると跳ね返りが足りません。また、左手の指が正確なタイミングで動かないと、音程が不明瞭になってしまいます。
リコシェは非常に華やかで名人芸的な印象を与えるため、ソロ曲のカデンツァや、ヴィルトゥオーゾ(達人)向けの作品でよく使用されます。弓の弾力性を最大限に活かす必要があり、弓の性能にも左右される繊細なテクニックです。
左手のテクニックで表現力を磨く:ビブラートや装飾音

右手が「音を出す」役割なら、左手は「音程を作り、歌わせる」役割を担います。単に正しい場所を押さえるだけでなく、指先の細やかな動きで音に彩りを加えることができます。ここでは表現力を高める左手の技術を見ていきましょう。
ビブラート (Vibrato)
「ビブラート」は、指を押さえながら手や腕を揺らし、音程を周期的に上下させて音に波を作る技術です。これにより、音に温かみや深みが生まれ、バイオリン特有の「歌うような」響きになります。ノンビブラートの音が真っ直ぐな線だとすれば、ビブラートの音は豊かな曲線と言えます。
ビブラートには大きく分けて、指先だけを動かす「指ビブラート」、手首を使う「手首ビブラート」、肘から大きく動かす「腕ビブラート」の3種類があります。曲の情熱的な場面では幅の広い腕ビブラートを、繊細な場面では細かい手首ビブラートを使うなど、場面に応じて使い分けることが理想です。
習得には時間がかかりますが、まずはメトロノームに合わせてゆっくりと均一に波を作る練習から始めます。力んでしまうと美しい波がかからないため、左手全体の脱力が何よりも重要です。美しいビブラートは、聴く人の心に直接訴えかける力を持っています。
グリッサンドとポルタメント (Glissando / Portamento)
どちらも音と音の間を滑らせてつなぐテクニックですが、意味合いが少し異なります。「グリッサンド」は、始点から終点までの音程を連続的に滑らせる「効果音的」な奏法です。指を弦の上で滑らせ、ヒュイーンという音を出します。華やかさや不安感など、劇的な効果を狙って使われます。
一方「ポルタメント」は、より感情表現の一部として、音の移り変わりを滑らかにするために使われる自然なスライドです。ロマン派の音楽などで、離れた音へ移動する際に、ほんの少し音を引きずるようにして色気や哀愁を表現します。
楽譜上ではどちらも直線で示されることが多いですが、演奏者のセンスで使い分けられます。ポルタメントはかけすぎると「演歌っぽい」あるいは「だらしない」演奏に聞こえてしまうこともあるため、品よく効果的に使うセンスが問われます。
トリル (Trill)
「トリル」は、ある音とその2度上の音(隣の音)を素早く交互に演奏して、音を装飾する奏法です。楽譜には「tr」という記号で書かれます。鳥のさえずりのようなキラキラとした効果を楽曲に与えます。
トリルを綺麗に弾くコツは、押さえている下の指(軸指)をしっかりと固定し、上の指を軽く、素早く叩くことです。力任せに叩くと指が固まってしまい、速く動きません。指の付け根から動かす意識を持ち、指先が弦から離れすぎないように、低い位置でコンパクトに動かすのがポイントです。
長いトリルを演奏する場合、途中で疲れて速度が落ちないように持久力も必要です。また、トリルの最後には「後打音(こうだおん)」と呼ばれる、装飾的な締めくくりの音を入れることが一般的です。
ハーモニクス(フラジオレット) (Harmonics)
「ハーモニクス(日本語ではフラジオレット)」は、弦を完全に押さえ込まず、指先で軽く触れるだけで弾くことで、倍音のみを響かせる奏法です。笛のような、透明感のある高く澄んだ音が特徴です。楽譜では音符の上に「○」が書かれたり、菱形の音符で示されたりします。
ハーモニクスには、開放弦の特定の場所(1/2、1/3、1/4の地点など)に触れる「自然ハーモニクス」と、人差し指でしっかり弦を押さえながら小指で触れる「人工ハーモニクス」があります。特に人工ハーモニクスは指の形を保つのが難しく、高度な技術を要します。
この音は、夢の中のような幻想的な雰囲気を出したい時や、非常に高い音域を簡単に(ポジション移動を少なく)出したい時に使われます。弓の圧力をかけすぎると音が潰れてしまうため、速めのボウイングで軽く弾くのが綺麗に鳴らすコツです。
特殊な音色を作る応用奏法:楽曲のスパイスになる技術

現代音楽やオーケストラ曲では、バイオリンの通常の音色とは全く異なる音を求められることがあります。ここでは、楽曲に独特な雰囲気や効果を加えるための特殊奏法を5つ紹介します。これらの用語を知っていると、オーケストラ鑑賞もより楽しくなるでしょう。
トレモロ (Tremolo)
「トレモロ」は、弓を小刻みに、非常に速く往復させて、音が震えているような効果を出す奏法です。楽譜では音符の棒に斜線が入った記号で表されます。緊迫感、ざわめき、あるいは神秘的な雰囲気を表現するのによく使われます。
右手の技術としては、手首や指の力を抜き、前腕の回転や手首のスナップを利用して細かく動かします。弓の先の方(アッパー)を使うと、小さく繊細なトレモロになり、弓の元の方を使うと、荒々しく劇的なトレモロになります。
オーケストラでは、弦楽器全体でトレモロをすることで、嵐のような轟音や、水面が揺らぐような背景音を作り出します。長時間続けると腕が疲れてくるため、いかに脱力して継続できるかが奏者の腕の見せ所です。
コル・レーニョ (Col legno)
「コル・レーニョ」はイタリア語で「木で」という意味です。なんと、弓の毛ではなく「木の部分(スティック)」で弦を叩いたりこすったりする奏法です。カチカチという打楽器的な音や、枯れ木がこすれるような乾いた音がします。
この奏法は、ベルリオーズの『幻想交響曲』やホルストの『惑星』など、特定の効果音を狙った楽曲で登場します。大切な弓の木を弦に打ち付けるため、楽器を大切にする奏者にとっては少し心が痛む瞬間でもあります。高価な弓を使う場合は、安価なサブの弓に持ち替えて演奏することもあります。
音量はあまり出ませんが、弦楽器セクション全員で一斉に行うと、独特のカサカサとした不気味な、あるいはユーモラスなリズムが生まれます。
スル・ポンティチェロ (Sul ponticello)
「スル・ポンティチェロ」は、「駒(ブリッジ)の上で」という意味の指示です。通常よりも極端に駒の近くを弾くことで、倍音が強調された、金属的で冷たい音色を出します。「ガラスのような音」「不気味な音」と形容されることもあります。
通常の奏法では嫌われる「かすれた音」をあえて出す技術です。ホラー映画の背景音楽や、現代音楽で緊張感を高める場面などで効果的に使われます。弓をコントロールするのが難しく、油断すると音が裏返ってしまいます。
この指示が出たら、ためらわずに駒のギリギリまで弓を寄せることが大切です。中途半端な位置では、単に汚い音になってしまうため、思い切りが必要です。
スル・タスト (Sul tasto)
「スル・タスト」は、「指板(フィンガーボード)の上で」という意味です。スル・ポンティチェロとは逆に、指板の上あたりで弓を動かします。こうすると、倍音が抑えられた、非常に柔らかく、こもったような優しい音色になります。
フルートの音色に似ていることから、「フラウタンド (Flautando)」と書かれることもあります。夢見るような弱音(ピアノ)の場面や、遠くから聞こえてくるような音響効果を作りたい時に適しています。
この場所で弾く時は、弓の圧力を極力抜いて、速めのボウイングでサラサラと弾くのがコツです。圧力をかけすぎると、弦の張力が弱いため音が潰れてしまいます。
奏法の位置による音色の変化
・通常の位置:バランスの取れた豊かな音
・駒寄り(ポンティチェロ):硬く、鋭い、金属的な音
・指板寄り(タスト):柔らかく、甘い、かすれた音
バルトーク・ピチカート (Bartók pizzicato)
「バルトーク・ピチカート」は、通常のピチカートをさらに強力にしたものです。弦を指板に対して垂直に強く引っ張り上げ、離した瞬間に弦が指板に「バチン!」と当たる破裂音を出します。楽譜では、丸に縦線が入った記号などが使われます。
作曲家バルトークが好んで使用したことからこの名がつきました。打楽器のような衝撃音が得られるため、現代曲や民族的な要素を持つ楽曲で、アクセントとして強烈なインパクトを残します。
演奏する際は少し勇気が必要ですが、思い切って弦を引っ張らないと良い音が鳴りません。ただし、やりすぎると弦が切れたり、楽器にダメージを与えたりする可能性もあるため、力の加減には注意が必要です。
まとめ:バイオリン奏法と用語を理解して、演奏をより楽しみましょう
バイオリンの奏法や用語について、基本的なものから特殊なものまで幅広くご紹介しました。最初は「覚えることが多くて大変そう」と感じたかもしれませんが、一つひとつの用語には、作曲家が求めた「音のイメージ」が込められています。
用語を知ることは、単なる知識の蓄積ではありません。楽譜に書かれた「Staccato」を見たときに、「ただ短く弾く」のではなく「どんなニュアンスで切るべきか」を想像できるようになることが重要です。また、「Sul tasto」の文字から、柔らかく幻想的な音色をイメージして弓を動かすことができれば、あなたの演奏はより表現豊かで感動的なものになるはずです。
この記事で紹介した奏法を一度にすべてマスターする必要はありません。日々の練習の中で新しい記号に出会ったら、またこのページに戻ってきて確認してみてください。用語の意味を理解し、実際に音を出して試してみるというプロセスの積み重ねが、バイオリンの上達を加速させてくれます。ぜひ、多彩な奏法を楽しみながら、あなただけの美しい音色を追求してください。



