「スズキメソードでバイオリンを習いたいけれど、どのくらいのレベルまで上達できるの?」
「今やっている教本が終わると、次はどんな曲が待っているんだろう?」
これからバイオリンを始めようとしている方や、すでにお稽古に通っている生徒さんや保護者の方にとって、教本の「レベル」や「進度」はとても気になるポイントですよね。スズキメソード(鈴木鎮一ヴァイオリン指導曲集)は、世界中で愛されている素晴らしいメソッドですが、その構成や難易度の階段がどのようになっているのか、全体像を知る機会は意外と少ないものです。
この記事では、スズキメソードの第1巻から第10巻までのレベル感や、各段階で習得するテクニック、そして独自の「卒業制度」について、やさしく丁寧に解説していきます。先の目標が見えると、日々の練習へのモチベーションもぐっと上がりますよ。ぜひ、これからのレッスンの参考にしてくださいね。
バイオリンのスズキメソードとは?レベル設定と教本の基本

まずは、スズキメソードがどのような考え方で作られているのか、その基本についてお話しします。単に「曲を弾く」だけでなく、音楽を通じた人間形成を目指すこのメソッドには、他の教本とは少し違った特徴があります。
母語教育法という独自の理念
スズキメソードの最大の特徴は、「母語教育法」と呼ばれる理念に基づいていることです。これは、「日本人の子供が日本語を自然に話せるようになるのと同じように、環境さえ整えれば、どの子も音楽の才能を伸ばすことができる」という考え方です。
赤ちゃんが言葉を覚えるとき、教科書を読んで文法を学ぶわけではありませんよね。まずは耳からたくさんの言葉を聞き、それを真似することから始まります。バイオリンも同じで、楽譜を読んで理屈で弾くよりも先に、「良い演奏をたくさん聴いて、耳から音を覚える」ことを徹底して重視します。
そのため、スズキメソードでは毎日の「CD(音源)鑑賞」が練習と同じくらい大切にされています。耳ができていると、新しい曲に進んだときもスムーズに弾けるようになりますし、美しい音色への感性も自然と育まれていきます。
スズキメソード教本の特徴と構成
スズキメソードの教本は、第1巻から第10巻まで出版されています。この10冊を通して、バイオリンの基礎から、モーツァルトの協奏曲を弾きこなす上級レベルまで、階段を登るように構成されています。
大きな特徴は、「名曲を弾きながらテクニックを学ぶ」というスタイルです。退屈な指の練習曲ばかりを繰り返すのではなく、バッハやヴィヴァルディ、ヘンデルといった偉大な作曲家の作品に取り組みながら、その曲に必要な技術を身につけていきます。
他の教本とのレベル比較と違い
バイオリンの教本として、スズキメソードとよく比較されるのが「篠崎バイオリン教本」や「新しいバイオリン教本」です。これらとの違いを簡単に説明しましょう。
「篠崎バイオリン教本」は、どちらかと言えば技術重視です。指のトレーニングや音階練習が細かく盛り込まれており、基礎を論理的に積み上げていくスタイルです。一方、スズキメソードは「曲を弾く喜び」を優先させるため、音階や細かい指の練習(エチュード)は、教本の中にはあまり含まれていません。
そのため、スズキメソードで習う場合、先生によっては「カイザー」や「小野アンナ音階教本」といった副教材を併用して、基礎技術を補強することが一般的です。レベル感としては、スズキの進度は比較的早めに名曲に触れられるため、モチベーションを維持しやすいというメリットがあります。
スズキメソード1巻〜3巻のレベル:基礎からポジション移動まで

ここからは、各巻の具体的な内容とレベルについて見ていきましょう。まずは、バイオリンの持ち方から始まり、少しずつ楽器に慣れていく初級段階の1巻から3巻です。
第1巻:キラキラ星から始めるバイオリンの第一歩
記念すべき第1巻は、バイオリンの導入です。楽器の構え方、弓の持ち方からスタートし、開放弦(左手で何も押さえない状態)でのボーイング練習を経て、最初の曲である「キラキラ星変奏曲」に入ります。
この「キラキラ星変奏曲」は、単なる童謡ではありません。タカタカタッタというリズムのバリエーションを通じて、弓を細かく動かすコントロールや、基本的な指の押さえ方を徹底的に学びます。この曲をしっかりと仕上げることが、その後の上達の土台となります。
第1巻の主な曲目
・キラキラ星変奏曲
・ちょうちょう
・むすんでひらいて
・クリスマスの歌
・メヌエット第1番〜第3番(バッハ)
・ガヴォット(ゴセック)
巻の後半には、バッハのメヌエットやゴセックのガヴォットなど、聴き馴染みのあるクラシックの名曲が登場します。これらが弾けるようになると、「バイオリンを弾いている!」という実感が湧いてくるでしょう。
第2巻:有名なクラシック曲への挑戦
第2巻に進むと、指の動きが少しずつ複雑になり、弓を使う範囲も広がります。1巻で学んだ基礎を使って、より音楽的な表現を目指す段階です。
「狩人の合唱」や「ワルツ」など、元気でリズミカルな曲から、ブラームスの「ワルツ」のように滑らかさが求められる曲まで、バリエーション豊かになります。また、スラー(ひと弓で複数の音を弾く技術)も多く登場し、右手と左手のタイミングを合わせる練習が重要になります。
この頃になると、知っている曲を自分で弾ける楽しさが増し、練習がより面白くなってくる時期でもあります。
第3巻:ポジション移動の導入とバッハ
第3巻は、初級から中級への入り口とも言える重要な巻です。ここでの最大のトピックは、一部の曲で「サードポジション(第3ポジション)」が登場することでしょう(先生の方針により、別の教本でポジション移動を補うこともあります)。
これまでは左手を一番ネックの端(第1ポジション)に置いていましたが、手を少し高い位置に移動させることで、より高い音が出せるようになります。これができるようになると、音域が広がり、演奏の幅が一気に広がります。
曲目としては、バッハの「ブーレ」や「ガヴォット」など、バロック音楽の傑作が含まれており、しっかりとした音程とリズム感、そして品格のある演奏が求められるようになります。
初級段階で大切にしたい練習のポイント
1巻から3巻を進めるにあたって、特に意識したいのが「基礎をおろそかにしない」ことです。曲が弾けるようになると、つい次へ次へと進みたくなりますが、自己流の癖がつくと後で直すのが大変です。
特に、弓を真っ直ぐに動かすことや、正確な音程をとることは、この時期に徹底して身につける必要があります。先生に指摘された「弓の持ち方」や「姿勢」を、鏡を見ながら毎回チェックする習慣をつけましょう。
また、スズキメソードの基本である「CDを聴く」ことも忘れないでください。お手本の音色が頭の中で鳴っている状態で練習することで、自然と良い音を出そうとする意識が指先に伝わります。
スズキメソード4巻〜6巻のレベル:中級へのステップアップ

4巻以降は、いよいよ本格的な「バイオリンの曲」らしい、聴き応えのある楽曲が並びます。技術的にも難易度が上がり、多くの学習者が「壁」を感じやすい時期でもありますが、ここを乗り越えると演奏の楽しさは格別です。
第4巻:ザイツやヴィヴァルディ協奏曲への挑戦
第4巻に入ると、初めて「協奏曲(コンチェルト)」という形式の曲が登場します。代表的なのがザイツの協奏曲や、ヴィヴァルディの「協奏曲イ短調」です。
この巻での大きな技術的課題は、以下の2つです。
・ポジション移動の本格化
第1ポジションと第3ポジションを素早く、正確に行き来する技術が必須になります。
・ビブラートの習得
音を揺らして響きを豊かにする「ビブラート」の練習を、この時期から本格的に始めるケースが多いです。
特にヴィヴァルディのイ短調は、バイオリン学習者にとっての最初の登竜門とも言える有名な曲です。速いパッセージを軽やかに弾く弓のテクニックも求められます。
第5巻:音楽的な表現力の深化とビブラート
第5巻では、より音楽的な深みが求められるようになります。ヴィヴァルディの「協奏曲ト短調」や、バッハの「2つのバイオリンのための協奏曲(ドッペルコンチェルト)」などが収録されています。
※版によって「ドッペルコンチェルト」の収録巻が4巻または5巻と異なる場合がありますが、このあたりのレベルで学ぶ重要なレパートリーです。
ここでは、単に音を並べるだけでなく、強弱のコントロールや、フレーズの歌わせ方など、表現力が問われます。ビブラートも、ただ揺らすだけでなく、曲の雰囲気に合わせてかけ方を工夫できるようになると、演奏がぐっと大人っぽくなります。ポジション移動も第2ポジションや第5ポジションなど、使える位置が増えていきます。
第6巻:ヘンデルや高難易度の楽曲へ
第6巻のメインとなるのは、コレッリの「ラ・フォリア」やヘンデルのソナタです。「ラ・フォリア」は変奏曲形式の大曲で、様々なテクニックと表現力が凝縮されています。
このレベルになると、楽譜の見た目も真っ黒(音符が多い)になり、1曲の演奏時間も長くなります。集中力と体力を維持しながら、最後まで緊張感を持って演奏しきる力が求められます。また、重音(2つの音を同時に出す)の技術もより高度になり、正確な音程感覚が不可欠です。
6巻を修了する頃には、アマチュアオーケストラなどでも、ある程度自信を持って弾けるだけの実力がついてきていると言えるでしょう。
中級の壁を乗り越えるための心構え
4巻から6巻は、曲が難しくなるため、1曲を仕上げるのに数ヶ月かかることも珍しくありません。「なかなか合格できない」と焦りを感じることもあるかもしれませんが、それは着実に高度な技術を身につけている証拠です。
この時期は、ただ回数を弾くだけでなく、「どうすれば先生のような音が出るのか」「楽譜にはどんな意味が込められているのか」を考えながら練習する「質」が大切になります。また、エチュード(練習曲集)で基礎体力をつけながら進めることで、結果的に曲の仕上がりも早くなります。
スズキメソード7巻〜10巻のレベル:上級者とモーツァルト協奏曲

7巻以降は上級レベルとなり、音楽大学の入試課題や、プロの演奏家もリサイタルで取り上げるような本格的な名曲が並びます。スズキメソードの集大成に向かっていく段階です。
第7巻・第8巻:バッハやエックレスなどのバロック名曲
7巻にはバッハの「協奏曲イ短調」、8巻にはエックレスのソナタなどが収録されています。これらの曲は、バイオリンのレパートリーとして非常に重要で、世界中のバイオリニストが演奏しています。
このレベルでは、高度なボウイング(弓使い)の技術はもちろん、バロック音楽特有の様式美や解釈を理解することが求められます。また、ハイポジション(高い音域)の使用頻度も増え、指板の端の方まで使って演奏します。
第9巻・第10巻:モーツァルトの協奏曲で集大成
スズキメソードの最終段階である9巻と10巻は、モーツァルトのバイオリン協奏曲です。9巻には「協奏曲第5番 イ長調(トルコ風)」、10巻には「協奏曲第4番 ニ長調」が収録されています。
モーツァルトの曲は、「音はシンプルに見えるけれど、最も演奏が難しい」と言われることがあります。誤魔化しがきかない透き通った音色、軽快でエレガントなリズム感、そして天真爛漫な表現力が必要です。
これらを弾きこなして10巻を修了することは、スズキメソードにおける一つの大きなゴールであり、「全課程修了」という誇らしい達成感を得ることができます。
最終巻終了後の進路と可能性
10巻を終えた後はどうなるのでしょうか?実は、スズキメソードにはその先にも「研究科」というさらに上のステージが用意されています。メンデルスゾーンやチャイコフスキーの協奏曲など、さらに難易度の高い大曲に挑戦し続ける生徒さんもたくさんいます。
また、ここまで来れば、どんなジャンルの音楽でも自由に楽しめる基礎力がついています。オーケストラや室内楽を楽しんだり、ポップスやジャズに挑戦したりと、バイオリンとともに豊かな人生を歩んでいくことができるでしょう。
スズキメソード独自の「卒業制度」とレベル認定

スズキメソードには、他の音楽教室にはあまり見られない「卒業制度」というユニークな仕組みがあります。これは、単に教本が進むこととは別に、公式にレベル認定を受けるシステムです。
録音提出による課程卒業とは
スズキメソードでは、特定の進度(課程)に達するごとに、決められた課題曲(卒業曲)を演奏し、その録音を本部に提出します。提出された録音は検定員の先生によって試聴され、合格すると晴れてその課程を「卒業」したと認定され、卒業証書が授与されます。
昔はカセットテープで提出していましたが、現在はデジタル録音での提出が主流になっています。この録音のために、普段のレッスン以上に細部まで磨き上げた演奏を目指すことになります。
各課程の卒業曲と到達目標
主な卒業課程と、その課題曲(卒業曲)の目安は以下の通りです。
主な卒業課程と課題曲
・前期初等科:ガヴォット(ゴセック/1巻)
・初等科:ブーレ(バッハ/3巻)
・前期中等科:協奏曲イ短調 第1楽章(ヴィヴァルディ/4巻)
・中等科:協奏曲ト短調 第1楽章(ヴィヴァルディ/5巻)
・高等科:協奏曲イ短調 全楽章(バッハ/7巻)
・才能教育課程卒業:協奏曲第4番 または 第5番 全楽章(モーツァルト/9・10巻)
このように、各巻の区切りとなる曲が卒業曲に設定されています。これを目指すことが、日々の練習の明確な目標となります。
卒業検定を受けるメリットとモチベーション
「わざわざ録音して提出するのは大変そう」と思うかもしれませんが、この制度には大きなメリットがあります。それは、「一つの曲を完璧になるまで突き詰める経験ができる」ことです。
普段のレッスンでは「まあまあ弾けているから合格」となる場合でも、卒業録音では「最高の演奏」を残そうと努力します。その過程で集中力や忍耐力が養われ、録り終えたときの達成感は大きな自信に繋がります。卒業証書をもらえる喜びは、子供たちにとって次のステップへ進む強力なモチベーションになります。
進度が気になった時に知っておきたいこと

「うちの子は進むのが遅い気がする」「◯年生なのにまだ◯巻…」と、周りと比べて焦ってしまうことは、バイオリンを習う家庭ではよくある悩みです。最後に、進度についての考え方をお伝えします。
人と比べず自分のペースで進む大切さ
スズキメソードの進度は、個人差が非常に大きいです。1年で1冊進む子もいれば、1冊に2年かける子もいます。しかし、進度が速いことが必ずしも「上手い」こととは限りません。
早く進んでも基礎が雑であれば、難しい曲になったときに行き詰まってしまいます。逆に、ゆっくりでも基礎を丁寧に固めた子は、後半の巻で驚くほど伸びることがあります。「育て方ひとつ」という言葉の通り、その子のペースに合わせて着実に力を積み重ねることが最も大切です。
先生によって進め方が違う理由
先生によっても、進め方の早さは異なります。「まずは楽しく弾いて、曲をどんどん経験させたい」という先生もいれば、「一曲一曲を完璧に仕上げてから次へ進む」という方針の先生もいます。
また、教本以外のスケール(音階)練習やエチュードをどれくらい取り入れるかによっても、教本の進み具合は変わります。もし進度について不安があれば、先生とコミュニケーションをとり、今どのような力を伸ばそうとしているのかを確認してみると良いでしょう。
併用教材(エチュード)の重要性
先ほども少し触れましたが、スズキメソードの教本をスムーズに進めるためには、実は「教本以外の練習」が鍵を握ります。カイザーやクロイツェルといったエチュードや、小野アンナなどの音階教本を並行して行うことで、指の独立性や弓のコントロールが強化されます。
教本の曲が進まないときこそ、こうした基礎練習に立ち返ってみてください。遠回りのように見えて、それが結果的にスズキメソードのレベルアップを助けてくれます。
バイオリンのスズキメソードのレベルまとめ:焦らず着実にステップアップしよう
今回は、バイオリンのスズキメソードのレベルや難易度、そして各巻の特徴について解説しました。内容を簡単におさらいしましょう。
記事のポイントまとめ
・第1〜3巻(初級):「キラキラ星」から始まり、ポジション移動の導入まで。基礎を作る大切な時期。
・第4〜6巻(中級):ヴィヴァルディやバッハの名曲に挑戦。ビブラートや表現力を磨く。
・第7〜10巻(上級):バッハやモーツァルトの協奏曲を演奏。スズキメソードの集大成。
・卒業制度:録音提出によるレベル認定があり、目標を持って取り組める。
・進度の考え方:速さよりも「質」と「基礎」が大切。人と比べず自分のペースで。
スズキメソードは、単なる技術の習得だけでなく、音楽を通じて心を育てる素晴らしいメソッドです。今はまだ難しそうに見える上の巻の曲も、毎日の小さな積み重ねがあれば、必ず弾ける日がやってきます。
焦らず、一歩ずつ、音楽を楽しみながらレベルアップを目指してくださいね。あなたのバイオリンライフが、より豊かで楽しいものになりますように応援しています!


