バイオリンを練習していて「重音(ダブルストップ)が出てくると急に弾けなくなる」「音が汚くて耳が痛い」と悩んでいませんか?バイオリンの重音ができないという悩みは、初心者から中級者まで非常に多くの人がぶつかる壁です。単音ならきれいに弾けるのに、2つの音になった途端に音程が狂ったり、片方の弦しか鳴らなかったりすると落ち込んでしまいますよね。
でも、安心してください。重音がうまくいかないのには必ず明確な「物理的な原因」があります。右手と左手の動きを分解し、一つずつ課題をクリアしていけば、誰でも美しいハーモニーを奏でられるようになります。この記事では、重音ができない原因から、具体的ですぐに実践できる練習ステップまでをやさしく解説します。
バイオリンの重音ができない主な原因とは?まずは基本をチェック

「練習しているのに全然上達しない」と感じる場合、そもそもなぜ重音ができないのか、その原因を正しく把握できていないことが多いです。バイオリンの重音は、単音を弾く技術の延長線上にあるようでいて、実は全く異なる身体の使い方が求められる場面も多々あります。まずは、ご自身の演奏がどのパターンに当てはまるのかを確認してみましょう。
右手の弓の角度が安定せず片方の弦しか鳴らない
重音がきれいに鳴らない最大の原因の一つは、右手のボウイングにあります。2本の弦を同時に鳴らすためには、弓の毛が2つの弦に対して均等に接している必要があります。しかし、この「2弦を同時に捉える角度」というのは非常にピンポイントで、少しでも角度がズレると、どちらか一方の弦しか鳴らなかったり、音がかすれたりしてしまいます。
特に、ダウンボウ(下げ弓)とアップボウ(上げ弓)を切り返す瞬間に、手首や肘が不用意に動いてしまい、弓の角度が変わってしまうケースがよく見られます。人間の腕は曲線的な動きをしやすいため、意識せずに動かすと弓が円を描くように動いてしまい、結果として平面(2弦同時)をキープできなくなるのです。この「平面を保つ感覚」が身についていないと、いくら左手で正しい音を押さえていても、重音はきれいに響きません。
左手の指が物理的に届かない・指同士がぶつかる
左手の問題として多いのが、指が思うように動かず、物理的に弦を押さえられないという悩みです。重音では、異なる弦を同時に押さえる必要があるため、普段の単音演奏よりも指を大きく開いたり、逆に窮屈な位置に指を配置したりしなければなりません。特に手が小さい方や指が太めの方は、「指が届かない」「隣の指が邪魔をして弦を押さえられない」という壁にぶつかりがちです。
例えば、人差し指と薬指で重音を押さえる際、薬指に引っ張られて人差し指の位置がずれてしまったり、逆に人差し指を固定しようとすると薬指が届かなくなったりします。また、指の腹が隣の開放弦に触れてしまい、ノイズが発生することもあります。これらは単に「練習不足」なのではなく、手のフォームや肘の位置が適切でないために起こる物理的な干渉が原因であることが多いのです。
必要以上に力が入ってしまい音が潰れる・汚くなる
「2つの音を出さなきゃ!」という意識が強すぎると、どうしても右手にも左手にも過剰な力が入ってしまいます。右手に力が入ると、弓を弦に押し付けすぎてしまい、「ギコギコ」という潰れた音になってしまいます。重音は弦の抵抗が増えるため、ある程度の重さは必要ですが、それは「圧力(プレス)」ではなく「腕の重み」でなければなりません。
一方、左手に力が入りすぎると、指が指板に張り付いてしまい、細かい音程の調整ができなくなります。また、左手の力みは手首や肩の硬直を招き、ビブラートもかけられなくなります。結果として、響きのない硬い音になり、少しの音程のズレが目立つ不快な和音になってしまうのです。「重音こそ脱力」という意識を持つことが、美しい響きへの第一歩です。
そもそも楽器のチューニングが合っていない可能性
技術的な練習を始める前に、必ず確認してほしいのが「チューニング(調弦)」です。バイオリンの重音は、2つの音が完全に調和したときに初めて美しく響きます。もし開放弦の合わせ方が甘かったり、チューナーの針が真ん中を指していても耳で聴いたときに響き合っていなかったりすると、いくら正しい指の位置で押さえてもきれいな重音にはなりません。
バイオリンの調弦は「完全5度」という純正律の響きで合わせるのが基本です。チューナーで一本ずつ完璧に合わせたつもりでも、重音で弾くと微妙に濁って聞こえることがあります。重音の練習をする際は、普段以上にシビアに調弦を行い、開放弦同士(G線とD線、D線とA線、A線とE線)を弾いて、きれいに響き合っているかを確認してから始めましょう。
重音をきれいに響かせるための「右手」のボウイング技術

重音がうまくできない時、多くの人は左手の指の形ばかりを気にしてしまいます。しかし、プロの演奏家や指導者の多くは「重音の失敗の7割は右手が原因」だと言います。右手のコントロールさえ安定すれば、左手の負担も減り、驚くほど楽に音が出せるようになります。ここでは、重音をマスターするための右手の具体的なコツを解説します。
2本の弦に均等に重さを乗せる「肘の高さ」の秘密
重音を弾く際、最も重要なのが右肘の高さです。単音を弾くとき、私たちは弦ごとに肘の高さを無意識に変えています(E線なら低く、G線なら高く)。では、重音の場合はどうでしょうか。答えは「2本の弦のちょうど中間の高さ」に肘をセットすることです。
例えば、D線とA線の重音を弾く場合、D線を弾くときの肘の高さと、A線を弾くときの肘の高さの、ちょうど真ん中の位置に肘を固定します。この位置が定まっていないと、弾いている最中に弓の重心がどちらかの弦に偏ってしまいます。鏡を見ながら、弓が2本の弦にピタリと吸い付くような「肘のポジション」を探してみてください。この高さが決まれば、腕の重みが自然と2本の弦に均等に伝わるようになります。
弓の角度(平面)を一定に保つためのイメージ
弓が弦に当たる角度がフラフラしていると、音が途切れたり、不要なアクセントがついたりします。これを防ぐためには、「弓で空中に一本のレールを作る」ようなイメージを持つと良いでしょう。弓の元から先まで、全く同じ角度のままスライドさせる感覚です。
具体的な練習として、壁や譜面台の端などをガイドにして、弓の角度が変わらないように動かす動作を確認するのも効果的です。また、手首を使いすぎると角度が変わりやすいため、重音の練習初期段階では、あえて手首を少し固定気味にして、腕全体で運ぶように意識すると「平面」の感覚がつかみやすくなります。慣れてきたら、その平面の中で手首の柔らかさを取り戻していきましょう。
圧力をかけすぎず、弦の振動を止めないボウイング
重音は「音が2倍になるから、力も2倍必要」と勘違いされがちです。しかし、実際には強く押し付けると弦の振動が死んでしまい、汚い音になります。必要なのは「圧力」ではなく、弓の毛を弦に広く密着させることです。
イメージとしては、弦の上に弓を「置く」感覚です。そして、その置いた弓を横に引くことで音を出します。上から押し潰す力はほとんど必要ありません。
この「弦の表面を捉える感覚」が分かると、重音でも透明感のある音が出せるようになります。
開放弦を使った重音ボウイングの基礎練習
左手を使わず、右手だけで行う「開放弦の重音練習」は、最も効果的なトレーニングの一つです。以下の手順で試してみてください。
1. まず、D線とA線の開放弦を同時に弾きます。
2. 弓の元から先まで、極めてゆっくり(1弓で10秒〜20秒かけるつもりで)弾きます。
3. その間、音が途切れたり、片方の弦だけになったりしないか、耳でよく聴きます。
4. 弓先でも弓元でも、2本の弦が均等に振動しているかを目でも確認します。
この練習を全ての弦の組み合わせ(G-D、D-A、A-E)で行います。単純ですが、これを毎日5分行うだけで、右手の安定感は劇的に向上します。音が揺れずにまっすぐ伸びるようになったら、そこで初めて左手の指を加えてみましょう。
左手のフォーム改善で重音の音程を安定させる

右手が安定したら、次はいよいよ左手の課題です。重音の音程が合わない、指が届かないといった悩みは、手のひらの向きや肘の位置を少し変えるだけで解決することがあります。ここでは、解剖学的な視点も含めた左手の使い方のコツを紹介します。
肘の位置を調整して指を回しやすくする
バイオリンの左手において、肘の位置はハンドルのような役割を果たします。特に重音の場合、低い弦(G線など)を押さえる指と、高い弦を押さえる指が混在するため、肘の位置調整が不可欠です。一般的に、「肘を普段よりも少し内側(右側)に入れる」ことで、指が指板の上に覆いかぶさるような形になり、重音が押さえやすくなります。
例えば、人差し指でE線、薬指でA線を押さえるような場合、肘が左側(外側)に出ていると、薬指が届きにくくなります。そこで肘をグッと体の中心寄りに持っていくと、手のひら全体が指板に近づき、無理なく指が届くようになります。ただし、やりすぎると窮屈になるので、弾きやすい「スイートスポット」を探すことが大切です。
指の付け根の高さと手のひらの向き
指が他の弦に触れてしまう原因の多くは、指の付け根(第三関節)が下がっていることにあります。指の付け根が指板よりも低い位置にあると、指を寝かせて押さえることになり、隣の弦に触れやすくなります。重音を弾くときは、指の付け根を高く保ち、指を上からトンネルのようにアーチ状にして落とすイメージを持ちましょう。
また、手のひらの向きも重要です。ネックに対して手のひらが並行すぎると、小指が届きにくくなることがあります。少し手のひらを自分の方へ傾けたり、逆にネック側に寄せたりすることで、4本の指すべてが均等に力を発揮できる角度が見つかります。自分の手の大きさや指の長さに合わせて、微調整を繰り返してみてください。
指先だけでなく「指の腹」の使い分け
「弦は指先で押さえるもの」と教わることが多いですが、重音においては必ずしもそうとは限りません。特に5度(同じ指で隣り合う2本の弦を押さえる)の場合、指先のとがった部分だけで2本を押さえるのは困難です。このような時は、指を少し寝かせて、指の腹を使って2本をまとめて押さえるテクニックが必要です。
逆に、隣の開放弦を鳴らしたいのに指が触れてしまう場合は、指先を立てて接触を避ける必要があります。つまり、重音の練習では「指のどの部分で弦に触れるか」を、一音一音意識的にコントロールすることが求められます。「ここは指先」「ここは少し腹を使って」と、指の接触ポイントを明確にすることで、クリアな音が鳴るようになります。
トンネルを作る指と押さえる指の独立性
重音の難易度を高めているのが、ある指は弦を押さえつつ、別の指はその弦をまたいで別の弦を押さえるという複雑な配置です。例えば、D線の開放弦を鳴らしながら、A線で3の指(薬指)を押さえる場合などは比較的楽ですが、逆のパターン(D線を押さえてA線を開放弦にするなど)では、押さえている指がA線に触れないように「トンネル」を作らなければなりません。
この「トンネル」を維持するためには、指の第一関節と第二関節をしっかりと曲げてアーチを作ることが不可欠です。練習方法としては、音を出さずに指の形だけを作り、トンネルの下を通る弦を指ではじいてみて、しっかり空間が確保されているか確認するのがおすすめです。指が弦に触れて「ペチッ」という音がしたら、アーチが崩れている証拠です。
3度・6度・8度など重音の種類別攻略法

一言で「重音」と言っても、音程の幅(度数)によって指の形や難易度は大きく異なります。それぞれの特性を理解し、攻略法を知っておくことで、効率よく練習を進めることができます。ここでは代表的な3つの重音パターンについて解説します。
初心者でも取り組みやすい「6度」のコツ
重音練習の入り口として最もおすすめなのが「6度」です(例:ドとラ、レとシなど)。なぜなら、バイオリンの指使いにおいて、6度は手が比較的自然な形のまま押さえられるからです。例えば、A線で1の指、E線で開放弦(または2の指)といった組み合わせは、手に無理な負担がかかりにくいのです。
6度の練習では、まず下の音を基準にして音程を取り、そこに上の音を重ねる感覚で弾くと安定します。響きとしても、3度ほど濁りにくく、8度ほど拡張も必要ないため、きれいなハーモニーを感じやすいでしょう。「重音が苦手!」という方は、まずは6度の連続した音階練習から始めて、重音に対する恐怖心を取り除くのが得策です。
指が密集して難しい「3度」のポイント
「3度」の重音(例:ドとミ、レとファ)は、音楽的によく使われますが、実は技術的にはかなり難しい部類に入ります。理由は、指同士が近すぎて邪魔をし合うからです。特に高いポジションに行くと指の間隔が狭くなるため、太い指の人にとっては物理的に並べるのが困難になることもあります。
3度をきれいに弾くコツは、2本の指を「横並び」にするのではなく、「前後にずらす」ことです。例えば、1の指と3の指で押さえる場合、1の指を少し手前(スクロール側)、3の指を少し奥(駒側)にずらすようなイメージで配置スペースを確保します。また、無理に指先だけで押さえようとせず、指の角度を工夫して、互いに干渉しない「逃げ道」を作ってあげることが重要です。
指の拡張が必要になる「8度(オクターブ)」
「8度(オクターブ)」は、1の指と4の指(小指)を使って押さえるのが基本ですが、これには手の拡張(ストレッチ)が必要です。手が小さい人にとっては最大の難関とも言えるでしょう。8度を弾く際のポイントは、1の指に重心を置くのではなく、4の指(小指)を基準に手の位置を決めることです。
多くの人は1の指を固定してから小指を伸ばそうとしますが、これでは小指が届きにくく、音程が低くなりがちです。逆に、小指が楽に届く位置に手のひらをセットし、そこから強い1の指を後ろに伸ばす方が、手全体の負担は減ります。また、親指の位置を少しネックの下の方に移動させると、指の可動域が広がり、オクターブが届きやすくなります。
不協和音になりがちな音程の微調整方法
重音の練習をしていると、「合っているはずなのに何か気持ち悪い」と感じることがあります。これは「差音(さおん)」や「うなり」が関係しています。バイオリンの重音では、完全に調和した時に「第三の音(差音)」が聞こえたり、音が透き通るように響いたりします。
音程を合わせる際は、チューナーの目盛りに頼るだけでなく、この「うなり」を聴く習慣をつけましょう。音が波打っている(ワンワンワンと聞こえる)状態は、まだ音程が合っていません。指をミリ単位で動かし、その波がスッと消えて一直線の響きになるポイントを探します。
練習の際は、下の音を基準音(根音)として安定させ、上の指を動かして響きの変化を実験してみると、正しい音程の感覚が耳に残りやすくなります。
バイオリンの重音が上達する段階的練習ステップ

原因とコツがわかったところで、実際にどのような手順で練習すればよいのか、具体的なステップを紹介します。いきなり楽譜通りに弾こうとせず、分解して組み立てていくのが近道です。
ステップ1:まずは片方の音だけを弾いて音程を確認する
重音の箇所に来たら、まずは焦らずに「上の音」と「下の音」を別々に弾いてみましょう。これを「分解練習」と呼びます。単音で弾いた時に音程が怪しければ、重音で合ったときに合うはずがありません。
まずは下の音だけを正しい音程で弾けるようにし、次に上の音だけを弾きます。この時、指の位置だけでなく、左手の肘の角度や手のフォームも確認してください。「単音なら完璧」と言える状態を作ることが、重音成功への第一歩です。
ステップ2:2つの音を「分散和音」で弾いて響きを聞く
次に、2つの音を同時ではなく、バラバラに連続して弾いてみます(アルペジオのように)。例えば「ド・ミ・ド・ミ…」と繰り返します。この際、指は2本とも押さえたままにしておきます。
この練習の目的は、指を押さえたままの状態に慣れることと、それぞれの音がクリアに鳴っているかを確認することです。もし「ド」を弾いている時に「ミ」の指が邪魔をして音が詰まるようなら、指の配置を微調整する必要があります。指を置いたまま、どちらの弦もきれいに鳴るフォームを見つけましょう。
ステップ3:非常にゆっくりとしたテンポで同時発音を練習する
フォームが固まったら、いよいよ2音同時に弾きます。ここでのポイントは、極限までテンポを落とすことです。一弓で数秒かけるロングトーンで行い、弓の吸い付き具合と響きの純度をチェックします。
最初は音が割れても構いません。右手の肘の高さや圧力を調整しながら、最もきれいに響くポイントを探ります。「きれいな響きがした!」という成功体験を脳と体に覚えさせることが重要です。まぐれではなく、意図的にその響きが出せるようになるまで、じっくりと繰り返しましょう。
ステップ4:曲の中での重音移行をスムーズにする予備動作
単独での練習ができたら、前後の音符とつなげて練習します。曲の中で重音が失敗する原因の多くは「準備不足」です。重音が出てくる直前の音を弾いている間に、すでに左手や右肘は重音の準備を始めていなければなりません。
これを「予備動作」と言います。例えば、前の音を弾いている最中に、次の重音で使う指を空中で準備しておいたり、右肘の高さを徐々に重音の位置へ近づけたりします。「重音が来てから反応する」のではなく、「来る前に待ち構えておく」意識を持つだけで、成功率は格段に上がります。
まとめ:バイオリンの重音ができない悩みは分解練習で解決
バイオリンの重音が「できない」と悩むことは、決して恥ずかしいことではありません。それは、あなたがより高度な演奏技術への入り口に立っている証拠でもあります。重音は、勢いや感覚だけで弾こうとすると難しいものですが、原因を「右手」と「左手」に分け、さらに「角度」「圧力」「指の配置」といった要素に分解していけば、必ず解決の糸口が見つかります。
今日からできることとして、まずは「開放弦でのボーイング練習」で右手の安定感を養い、「6度などの易しい重音」から左手の感覚を掴んでみてください。そして、常に「脱力」と「響きを聴く耳」を忘れないようにしましょう。焦らず、一歩ずつ丁寧に取り組めば、ある日ふと、楽器全体が共鳴するような美しい重音が弾けるようになるはずです。その時の感動を目標に、日々の練習を楽しんでください。


