バイオリンを弾いていると「首が痛い」「楽器が安定しない」と悩むことはありませんか?その原因、実は「顎当ての高さ」が合っていないからかもしれません。多くの人が楽器に最初から付いている顎当てをそのまま使っていますが、骨格や首の長さは人それぞれ異なります。自分に合った高さを見つけることは、快適な演奏への第一歩です。この記事では、顎当ての高さが重要な理由から、自分に合う高さの見極め方、そして具体的な調整方法までをやさしく解説します。
バイオリンの顎当ての高さが演奏に与える大きな影響

バイオリンを演奏する上で、顎当て(あごあて)は単なる付属品ではありません。楽器と身体をつなぐ最も重要な接点の一つです。多くの奏者が、楽器が弾きにくい原因を「練習不足」や「フォームの悪さ」だと考えがちですが、実は道具のセッティング、特に高さが身体に合っていないことが根本的な原因であるケースが非常に多いのです。
ここでは、なぜ顎当ての高さがそれほどまでに重要なのか、その理由を具体的に掘り下げていきます。
首や肩への負担を減らす「隙間」の法則
バイオリンを構える際、理想的なのは「頭の重さだけで楽器を支える」状態です。しかし、顎当ての高さが足りないと、鎖骨と下顎の間に大きな「隙間」ができてしまいます。この隙間を埋めようとして、無意識に首を下に強く曲げたり、逆に肩をすくめて楽器を持ち上げたりしてしまいます。これが慢性的な首こりや肩こりの原因となります。
適切な高さの顎当てを使用すると、この隙間が自然に埋まり、無理な筋力を使わずに楽器を水平に保てるようになります。まるでパズルのピースがハマったかのように、首や肩の緊張がフッと抜ける瞬間があるのです。長時間の練習でも疲れにくくなるのは、このためです。
左手の自由度と技術向上への関係
楽器を顎と肩(鎖骨)でしっかりと挟めていないと、バイオリンがぐらつきます。すると、楽器が落ちないように左手でネックを握りしめて支えることになります。これでは、左手の指を素早く動かしたり、スムーズなポジション移動(音程を変えるために手を移動させること)をしたりすることが困難になります。
高さの合った顎当てを使うと、左手が楽器を支える役割から解放されます。その結果、指が驚くほど自由に動くようになり、ヴィブラートもかけやすくなります。「技術の壁」だと思っていたものが、実は「道具の不適合」だったということも珍しくありません。
音色と楽器の響きを変えるメカニズム
顎当ての高さや形状は、音色にも影響を与えます。無理な力で楽器を締め付けてしまうと、バイオリンの木の振動を身体が止めてしまい、音が響かなくなってしまいます。リラックスして構えられる高さに調整することで、楽器本来の響きを最大限に引き出すことができます。
また、顎当て自体の材質や重量も音に関係しますが、まずは「奏者がリラックスできる高さ」であることが、良い音を出すための最優先事項と言えるでしょう。
今の高さは合っている?チェックポイントと診断方法

「自分に合っていない気がするけれど、正解がわからない」という方も多いでしょう。ここでは、現在の顎当ての高さが適切かどうかを判断するための具体的なチェックポイントをご紹介します。鏡の前で楽器を構えながら確認してみてください。
首の角度と目線を確認する
楽器を構えたとき、首が極端に左に傾いたり、下を向きすぎていたりしませんか?理想は、背筋を伸ばして正面を向いた状態から、わずかに頭を左に回して楽器に乗せる程度です。もし、顎を楽器に押し付けるように深くうなだれているなら、顎当てが低すぎる可能性があります。
逆に、楽器に乗せたときに首が詰まるような苦しさがあったり、目線が上を向いてしまったりする場合は、顎当てが高すぎるか、肩当てが高すぎる可能性があります。自然な視線を保てるかが重要な判断基準です。
肩当てとのバランスを見直す
「顎当ての高さ」を考えるとき、セットで考えなければならないのが「肩当て」です。多くの人は、首の長さに合わせようとして、肩当ての足を伸ばして高くしがちです。しかし、肩当てばかりを高くすると、楽器全体の位置が高くなりすぎ、今度は右手の弓を持つ位置まで高くなってしまいます。これでは右肩が疲れてしまいます。
基本的には「楽器と顎の隙間は顎当てで埋める」「楽器と鎖骨の隙間は肩当てで埋める」のが理想のバランスです。肩当てを極端に高くしている場合は、肩当てを少し下げて、その分顎当てを高くすることを検討してみましょう。
顎の形とカップの深さの相性
高さだけでなく、顎当ての「お皿(カップ)」の形状もフィット感に影響します。顎が尖っている人、平らな人、エラが張っている人など、骨格は様々です。今の顎当てが痛いと感じる場合、高さの問題ではなく、カップのカーブが顎の骨に当たっているだけかもしれません。
例えば、カップが深すぎるものは固定感がありますが、位置を動かしにくくなります。逆にフラットなものは自由度が高いですが、滑りやすいと感じることがあります。高さと同時に「痛くないか」も確認しましょう。
楽器の水平キープテスト
左手を楽器から離しても、楽器が水平を保っていられるかテストしてみましょう(落下には十分注意してください)。もし、左手を離した瞬間に楽器がガクッと下がったり、顎だけで必死に挟み込まないと維持できなかったりする場合は、高さやフィッティングが合っていません。
適切な高さであれば、顎の重さを軽く乗せるだけで、テコの原理によって楽器の先端が自然と持ち上がり、安定するはずです。
主な顎当ての種類と高さの特徴を知ろう

バイオリンの顎当てには、いくつかの代表的な「型」があります。それぞれの形状によって、感じる高さや顎の引っかかり具合が異なります。ここでは代表的な種類を紹介します。名前を知っておくと、選ぶ際に非常に役立ちます。
グァルネリ型(Guarneri)
最も普及している標準的なタイプです。テールピース(弦を止めている黒い部品)をまたいで、左側に大きなお皿が広がっています。多くの楽器に最初から付属しているのがこのタイプです。
高さは標準的ですが、カップの丸みがなだらかで、多くの人の顎にフィットしやすい形状をしています。まずはこの型を基準にして、「もっと高い方がいい」「もっと平らな方がいい」と考えていくと良いでしょう。
フレッシュ型(Flesch)
テールピースの真上に顎を乗せるタイプです。楽器の真ん中で構えることになるため、身体の軸が安定しやすいのが特徴です。昔の巨匠たちが愛用していたことでも知られています。
このタイプは、楽器の中央に乗せるため、左側に寄せるタイプよりも「楽器が身体に近い」と感じることが多いです。高さ自体は標準的なものが多いですが、構える位置が変わるため、首の角度への影響が大きいです。
SAS(サス)型・高さ調整可能タイプ
近年人気が高まっているのが、スロベニア製の「SAS」という顎当てです。この製品の最大の特徴は、高さのバリエーションが豊富(24mm, 28mm, 32mm, 35mmなど)であることです。また、取り付け金具が一本足で、角度を左右に調節できる機能もついています。
首が長い人にとって、通常の顎当て(約20mm前後)では低すぎることが多いため、SASのように最初から高い設計になっているモデルは救世主のような存在です。自分に合う高さを数値で選べる数少ない製品です。
その他のタイプ(テカ、ドレスデンなど)
「テカ(Teka)」型は、カップが深く、外側が高くなっているため、顎の引っかかりが非常に良いタイプです。高さもしっかり感じられるため、安定感を求める人に人気があります。
「ドレスデン(Dresden)」型は、カップが比較的浅く、形状がなだらかです。汗をかきやすい人や、特定の場所に圧迫感を感じる人に好まれます。これらはデザインによって体感の高さが変わる好例です。
顎当ての高さを調整する具体的な方法

「新しい顎当てを買うのはハードルが高い」「今使っているものが気に入っているけれど、あと少しだけ高くしたい」という場合、自分でできる調整方法もあります。ここでは、高さを出すための具体的な手段をいくつか紹介します。
コルクを足して底上げする
最も一般的な微調整の方法です。顎当ての裏側(楽器と接する部分)にはコルクが貼ってありますが、ここに新しいコルクシートを追加して高さを出します。1mm〜3mm程度の微調整ならこの方法が有効です。
ホームセンターや楽器店でコルクシートを購入し、足の形に合わせてカットして挟みます。ただし、あまり厚くしすぎると、金具(クランプ)の長さが足りなくなり、楽器に取り付けられなくなるので注意が必要です。金具の長さに余裕があるか事前に確認しましょう。
市販のパッドやカバーを利用する
顎当ての上に被せる「顎当てカバー」や、貼り付ける「ジェルパッド」などのグッズを利用する方法です。これらは高さを出すだけでなく、金属アレルギーの防止や、汗による滑り止め、肌触りの改善というメリットもあります。
革製のカバーや、スポンジが入ったカバーをつけるだけで、5mm近く高さを稼げる場合もあります。楽器を改造する必要がないため、最も手軽でリスクの少ない方法と言えます。「高さが足りない気がする」という段階なら、まずはタオルハンカチを折りたたんで挟み、高さをシミュレーションしてみるのも良いでしょう。
高さのあるモデルに買い替える
3mm以上の大幅な高さアップが必要な場合は、やはり「高さのある顎当て」に買い替えるのが一番確実です。前述の「SAS」や、メーカーによっては「ハイ・モデル(High Model)」として通常より高いバージョンを販売していることもあります。
特に首が長い人は、既存の顎当てをコルクで底上げするだけでは不安定になりがちです。背の高い顎当ては、足の金具も長く作られているため、安全に楽器に取り付けることができます。
専門の工房でオーダーメイドする
既製品ではどうしても合わない場合、弦楽器の工房で顎当てを加工してもらうことも可能です。既存の顎当ての上に木材を継ぎ足して高くしたり、自分の顎の形に合わせて削り直してもらったりすることができます。
費用はかかりますが、プロの職人が身体と楽器のバランスを見て調整してくれるため、フィット感は格段に向上します。長年の痛みに悩んでいる方は、一度工房で相談してみる価値があります。
まとめ
バイオリンの顎当ての高さについて、その重要性から選び方、調整方法まで解説しました。記事のポイントを振り返ってみましょう。
【記事の要点】
・顎当ての高さが合わないと、首や肩の痛みだけでなく、左手の技術や音色にも悪影響が出る。
・肩当てだけで高さを出すのではなく、顎当ての高さで「顎と楽器の隙間」を埋めるのが基本。
・首が長い人には、SASのような高さのバリエーションがあるモデルや、カップの深いタイプがおすすめ。
・少しの高さ調整なら、コルクの追加やパッドの使用で手軽に改善できる。
「バイオリンは痛いのを我慢して弾くもの」ではありません。ご自身の首の長さや骨格に合った高さの顎当てを見つけることで、驚くほど演奏が楽になります。まずはハンカチを挟んで高さを試してみるなど、小さな実験から始めてみてください。あなたにぴったりのセッティングが見つかることを応援しています。

