バイオリンの弓の持ち方「ドイツ式」とは?特徴や他の流派との違いを解説

バイオリンの弓の持ち方「ドイツ式」とは?特徴や他の流派との違いを解説
バイオリンの弓の持ち方「ドイツ式」とは?特徴や他の流派との違いを解説
弾き方・練習法

バイオリンの音色を左右する重要な要素である、右手の弓の持ち方。一般的には先生から教わった持ち方をそのまま習得することが多いですが、実は世界にはいくつかの流派が存在することをご存知でしょうか。

その中でも「ドイツ式」というキーワードで検索をされたあなたは、もしかすると今の持ち方に違和感があったり、より良い音色を求めて研究されていたりするのかもしれません。あるいは、コントラバスのような下から持つ持ち方を想像して調べてみたという方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、バイオリンにおける「ドイツ式」の弓の持ち方の特徴、メリット・デメリット、そして現代の主流である他の流派との違いについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。自分に合ったボウイングを見つけるヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

バイオリンの弓の持ち方「ドイツ式」とは?

まずはじめに、バイオリンの弓の持ち方における「ドイツ式」がどのようなものなのか、その基本的な特徴を解説します。現代の日本の教室で一般的に教えられている持ち方とは少し異なる点があります。

指先で浅く持つのが最大の特徴

バイオリンの弓の持ち方における「ドイツ式(ジャーマン・スタイル)」の最も大きな特徴は、指先を使って浅く持つという点です。弓の木の部分(スティック)に対して、指を深く巻きつけるのではなく、指先をちょこんと乗せるようなイメージに近い形になります。

人差し指から小指までが、弓に対して比較的浅く接しているため、手のひらと弓の間には広めの空間が生まれます。これにより、指先の感覚が弓に伝わりやすくなり、非常に繊細なコントロールが可能になると言われています。現代の主流な持ち方では、人差し指の第二関節付近で持つことが多いですが、ドイツ式では第一関節、あるいは指の腹に近い部分で支える傾向があります。

他の指と密着させて「一本の棒」のように扱う

もう一つの特徴として、人差し指から小指までの指同士の間隔をあまり空けず、互いに密着させて揃える傾向があります。現代の主流な持ち方では、人差し指と中指の間を少し空けて、バランスを取りやすくすることが一般的ですが、古いドイツ式では指を揃えて一本の板のような面を作ります。

このように指を密集させることで、手首から指先までが一体化しやすくなります。その結果、手首の動きをダイレクトに弓へ伝えることができるのですが、一方で指の独立した動きは制限されやすくなるという側面もあります。指を伸ばし気味にして、関節をあまり曲げずに持つスタイルも、このドイツ式の特徴として語られることが多いです。

「古いドイツ式」と呼ばれることも多い

現在、日本や世界中の音楽教室で標準的に教えられているのは、後述する「フランコ・ベルギー式」という持ち方です。そのため、今回解説している純粋な「ドイツ式」は、現代では「古いドイツ式」や「オールド・ジャーマン・スタイル」と呼ばれることもあります。

しかし、これは「時代遅れで使えない」という意味ではありません。かつての巨匠たちの中にはこの持ち方で素晴らしい演奏を残した人もいますし、現代でも個人の骨格や指の長さに合わせて、ドイツ式に近い持ち方を採用しているプロの演奏家も存在します。大切なのは「型」そのものではなく、そこからどのような音が生まれるかという点です。

「ドイツ式」というと、ドイツのオーケストラ全員がこの持ち方をしていると思われがちですが、現代では地域による差は少なくなっており、ドイツ国内でも様々な持ち方が混在しています。

【注意】コントラバスの「ジャーマン式」とは別物

ここで一つ、非常に重要な注意点があります。弦楽器の仲間である「コントラバス」にも「ドイツ式(ジャーマン式)」と呼ばれる弓の持ち方が存在しますが、これはバイオリンのドイツ式とは全くの別物です。

コントラバスのドイツ式は、手のひらを上に向けて、弓の下からフロッグ(毛箱)を握り込むように持つ独特なスタイルです。一方、バイオリンのドイツ式は、あくまで手のひらは下を向き、弓の上から指を乗せるスタイルです。「バイオリンでも下から持つ持ち方があるのかな?」と疑問に思っていた方は、楽器の構造や大きさの違いによるものだと理解しておきましょう。

ドイツ式のメリットとデメリット

どんな持ち方にも、得意なことと不得意なことがあります。ここでは、ドイツ式の持ち方を採用した場合にどのような演奏上のメリットがあり、逆にどのような難しさがあるのかを深掘りします。

【メリット】繊細で優しい音色が作りやすい

ドイツ式の最大のメリットは、その構造上、弦に対して過度な圧力をかけにくいという点にあります。指先で浅く持つため、腕の重さをガッツリと乗せるというよりは、弓の自重を生かした演奏になりやすいのです。

そのため、音が潰れてしまうことが少なく、透明感のある優しい音色や、柔らかい響きを引き出すのに適しています。特に、室内楽やバロック音楽など、繊細なニュアンスが求められる場面では、この持ち方が独自の魅力を発揮することがあります。音がギコギコとなりやすい初心者の方でも、きれいな音が出やすいと感じる場合があるかもしれません。

【メリット】指先の感覚がダイレクトに伝わる

指先という神経が集中している部分で弓を持つため、弓が弦に触れている感覚や、弦の振動を敏感に感じ取ることができます。まるで指が長くなって、直接弦を撫でているような感覚を得られるという奏者もいます。

この「指先の感覚」は、バイオリン演奏において非常に重要です。微妙な音色の変化や、弓を返す瞬間のコントロールなど、指先からのフィードバックが多ければ多いほど、演奏の微調整がしやすくなります。自分の出している音を指先で「聴く」ことができるのは、浅く持つドイツ式ならではの利点と言えるでしょう。

【デメリット】大きな音量(フォルテ)が出しにくい

一方で、明確なデメリットも存在します。それは、重厚で大きな音量を出すのが難しいという点です。指先だけで支えているため、腕や背中の重みを弓に乗せようとしても、力が分散してしまい、効率よく弦に伝えることが難しくなります。

ロマン派以降の協奏曲(コンチェルト)のように、オーケストラをバックにして大音量でソロを弾くような場面では、パワー不足を感じる可能性があります。現代のホールは広いため、遠くまで音を飛ばすためには、より効率的に圧力を伝えられる持ち方(ロシア式など)の方が有利とされることが多いです。

【デメリット】現代の奏法(飛ばしなど)には工夫が必要

バイオリンのテクニックには、弓を弦の上で跳ねさせる「スピッカート」や「リコシェ」といった高度な技法があります。これらのテクニックは、弓の弾力と指の柔軟なクッション性を利用して行います。

ドイツ式のように指を伸ばし気味にして関節を固めてしまう持ち方だと、このクッションの役割が弱くなり、弓をコントロールするのが難しくなる場合があります。もちろん練習次第で可能ですが、現代の主流な持ち方に比べると、習得へのハードルが少し高くなる傾向にあります。

主流の「フランコ・ベルギー式」「ロシア式」との違い

バイオリンの弓の持ち方には、ドイツ式以外にも有名な流派があります。特に現代の主流である「フランコ・ベルギー式」と、パワー型の「ロシア式」について、ドイツ式との違いを比較してみましょう。

バランス型の「フランコ・ベルギー式」

現在、世界中で最も普及しており、日本のバイオリン教室でも標準的に教えられているのが「フランコ・ベルギー式」です。フランス派とベルギー派の特徴が融合したスタイルで、まさに「万能型」と言えます。

特徴は、人差し指の第二関節付近で弓を持ち、人差し指と中指の間を少し空けることです。ドイツ式よりも深く持ちますが、ロシア式ほど深くはありません。この持ち方は、弓の圧力を適度にかけつつ、指の関節を柔軟に使って細かいテクニックにも対応できるため、現代の多様な演奏スタイルに最も適しているとされています。

パワー重視の「ロシア式」

もう一つの主要な流派が「ロシア式」です。20世紀を代表する大バイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツなどがこの持ち方だったことで有名です。

特徴は、人差し指を非常に深く(指の付け根近くまで)弓に巻きつけるように持つことです。手首が高い位置に来るため、腕の重さを効率よく人差し指に乗せることができます。これにより、驚くほど太く、輝かしい大音量を出すことが可能になります。ただし、コントロールが難しく、音が潰れやすいため、習得には高い技術が必要とされることもあります。

比較表で見る3つの流派の違い

それぞれの流派の特徴を整理するために、簡単な比較表を作成しました。違いを一目で確認してみましょう。

流派 持ち方の深さ 人差し指の状態 特徴・メリット
ドイツ式 浅い(指先) 第一関節付近・伸ばし気味 繊細、優美、軽い音色
フランコ・ベルギー式 中くらい 第一〜第二関節・曲げる バランスが良い、万能型
ロシア式 深い 第二〜付け根・巻き込む 大音量、重厚、パワフル

ポイント:
これらはあくまで「分類」であり、実際の演奏者はこれらをミックスしたり、自分の手に合わせてアレンジしたりしています。「絶対にどれか一つに当てはまらなければならない」というわけではありません。

自分に合った弓の持ち方を見つけるポイント

ここまで読んで、「自分にはどの持ち方が合っているんだろう?」と思った方もいるでしょう。流派を選ぶ際や、持ち方を調整する際に考慮すべきポイントをいくつかご紹介します。

手の大きさや指の長さで向き不向きがある

弓の持ち方は、手の骨格に大きく左右されます。例えば、指が非常に長い人が無理に浅く持とうとすると(ドイツ式)、指が余ってしまって安定しないことがあります。逆に、手が小さく指が短い人が深く持とうとすると(ロシア式)、弓を支えきれなくなることもあります。

一般的に、指が長い人は少し深めに持つ余裕があり、指が短い人は浅めになりがちです。無理に特定の型にはめ込むのではなく、弓を持った時に手が痛くならず、自然に支えられる位置を探すことが最優先です。

メモ:有名なバイオリニストのギドン・クレーメルは、指が非常に長いため、ドイツ式のように浅く持っているように見えることがありますが、これは彼の手の大きさに合わせた結果とも言われています。

弾きたい曲のジャンルや音色で選ぶ

自分がどのような曲を弾きたいかによっても、適した持ち方は変わります。例えば、バッハやモーツァルトなどの古典派以前の音楽を、当時の楽器(バロックバイオリン)に近いニュアンスで弾きたい場合は、浅く持つドイツ式のアプローチが役立つことがあります。

一方で、チャイコフスキーやブラームスのような、感情豊かで重厚なオーケストラ曲を弾きたい場合は、しっかり圧力をかけられる持ち方が求められます。自分が目指す「理想の音」に合わせて、持ち方を微調整していくのも一つの方法です。

先生の指導方針に従うのが基本

独学でバイオリンを弾いている場合は自由に試行錯誤できますが、もし先生について習っている場合は、まずは先生の指導する持ち方を徹底することをおすすめします。

なぜなら、先生はその持ち方を前提とした「体の使い方」や「弓の動かし方」を指導しているからです。持ち方だけを勝手に変えてしまうと、先生のアドバイスと矛盾が生じ、上達の妨げになってしまう可能性があります。もし持ち方に悩みがある場合は、勝手に変える前に「こういう持ち方に興味があるのですが」と相談してみるのが良いでしょう。

弓の持ち方を安定させるための練習のコツ

どの流派(スタイル)を選ぶにしても、共通して言える「良い持ち方のコツ」があります。ドイツ式を試す場合でも、現代的な持ち方に戻す場合でも、以下のポイントを意識して練習してみてください。

「キツネ」や「卵」のイメージを持つ

弓の持ち方を子供に教える際によく使われるのが、動物や物の形に例える方法です。これは大人にとっても非常に有効なイメージトレーニングになります。

  • キツネの手:親指と中指・薬指で丸い輪を作り、人差し指と小指を耳のように立てる形(これは主にフランコ・ベルギー式の基本形)。
  • 卵を持つ手:手のひらの中に、割れやすい卵を優しく包み込んでいるような、ふんわりとした空間を作るイメージ。

ドイツ式の場合は指を伸ばし気味にしますが、それでもガチガチに力を入れてはいけません。「指先で高価な羽根をつまむ」ような、繊細な力加減をイメージすると良いでしょう。

鉛筆を使ったシミュレーション

いきなり重たい弓で練習すると、どうしても落とさないように力が入ってしまいます。そこで、軽くて短い鉛筆(またはボールペン)を使って指の形を作る練習がおすすめです。

鉛筆を弓に見立てて、理想とする指の配置を作ってみましょう。軽いので指への負担が少なく、鏡を見ながら細部までチェックできます。特に、小指が突っ張っていないか、親指が反り返っていないかを確認するのに最適です。テレビを見ながらでもできるので、指の形を筋肉に覚え込ませるのに効果的です。

鏡でのセルフチェックと脱力の重要性

練習中は必ず鏡を使って、自分の右手を客観的に観察しましょう。自分では「力を抜いているつもり」でも、鏡で見ると小指がピンと立っていたり、肩が上がっていたりすることはよくあります。

バイオリン演奏において最大の敵は「無駄な力(脱力ができていない状態)」です。ドイツ式であれ他の方式であれ、右手の親指が突っ張って逆反りしてしまうのはNGです。親指の関節は常に柔らかくし、クッションの役割を果たせるように意識してください。持ち方を変える時は、一時的に違和感を感じるものですが、痛みが出る場合は間違った力の入り方をしている可能性が高いので、すぐに休憩しましょう。

まとめ:ドイツ式を知ることでボウイングの理解が深まる

まとめ
まとめ

バイオリンの弓の持ち方における「ドイツ式」について、その特徴や現代の主流との違いを解説してきました。要点を振り返ってみましょう。

  • バイオリンの「ドイツ式」は、指先で浅く持ち、指を密着させるスタイル。
  • 繊細で優しい音色は得意だが、大音量や現代的な技巧には工夫が必要。
  • コントラバスの「ドイツ式(下から持つ)」とは全くの別物。
  • 現代の主流はバランスの良い「フランコ・ベルギー式」。

「ドイツ式」という言葉を知り、その特徴を理解することは、自分の現在の持ち方を見直す良いきっかけになります。「なぜ今の持ち方では指を深くかけるのか?」「なぜ指の間隔を空けるのか?」といった疑問が解消されれば、練習の質も向上するはずです。

もし、今の持ち方に行き詰まりを感じているなら、先生と相談しながら、指の位置を少し浅くしてみたり、深くしてみたりと微調整を試みてはいかがでしょうか。流派の名前にとらわれすぎず、あなたにとって「最も良い音が鳴り、楽に弾ける形」こそが、あなたにとっての正解です。理想のボウイングを目指して、日々の練習を楽しんでください。


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