メンデルスゾーン『スコットランド』をバイオリン視点で楽しむ!名曲の背景と聴きどころ

メンデルスゾーン『スコットランド』をバイオリン視点で楽しむ!名曲の背景と聴きどころ
メンデルスゾーン『スコットランド』をバイオリン視点で楽しむ!名曲の背景と聴きどころ
名曲解説・楽譜

クラシック音楽ファン、そしてバイオリン愛好家の皆さん、こんにちは。フェリックス・メンデルスゾーンといえば、あの有名なバイオリン協奏曲(メンコン)を作曲した人物としておなじみですね。彼が残した交響曲の中でも、特に人気が高いのが交響曲第3番『スコットランド』です。

この曲は、北国の幻想的な風景や、少し哀愁を帯びたメロディがたっぷりと詰まっており、弦楽器の美しい響きが随所に生かされています。バイオリンを弾く人にとっても、オーケストラの中で演奏する喜びを存分に感じられる作品の一つといえるでしょう。

今回は、このメンデルスゾーン『スコットランド』について、作曲された背景や各楽章の聴きどころ、そしてバイオリン奏者ならではの注目ポイントなどを、やさしく丁寧に解説していきます。演奏する予定がある方も、純粋に鑑賞を楽しみたい方も、ぜひ最後までお付き合いください。

メンデルスゾーン『スコットランド』とはどんな曲?

まずは、この交響曲がどのようにして生まれたのか、その基本的な情報と歴史的な背景から見ていきましょう。タイトルにある通り、この曲はイギリスのスコットランド地方と深い関わりがあります。

若き日の旅行から受けたインスピレーション

メンデルスゾーンは非常に裕福な家庭に育ち、教養を深めるためにヨーロッパ各地を旅行しました。彼が20歳だった1829年、初めてイギリスを訪れた際にスコットランド地方へ足を延ばしたことが、この曲の誕生のきっかけです。

彼は、スコットランドの首都エディンバラにある「ホリールード宮殿」を訪れました。そこには、かつて悲劇の女王メアリ・スチュアートが暮らした古城があり、隣接する礼拝堂は屋根が落ちて廃墟となっていました。草が生い茂り、空がむき出しになったその荒涼とした風景に、メンデルスゾーンは強い衝撃を受けます。

その場で彼は、冒頭の印象的なメロディを書き留めました。これが、後に交響曲全体の核となる重要なテーマとなったのです。明るく輝かしい『イタリア』交響曲とは対照的に、霧が立ち込めるような北国の空気が、この曲の原点にあります。

完成までに13年を要した苦心の作

着想を得たのは早かったものの、実際に曲が完成するまでには長い年月がかかりました。メンデルスゾーンは完璧主義者として知られており、納得いくまで筆を進められなかったようです。書き始めた直後にイタリア旅行へ出かけてしまい、明るいイタリアの雰囲気に気分が染まってしまったため、暗く重厚なスコットランドの気分に戻れなかったとも言われています。

結局、彼がこの曲を完成させたのは1842年、着想から実に13年後のことでした。その間、彼は指揮者として活躍し、作曲家としての技術も円熟味を増していきました。そのため、この『スコットランド』は、若き日の瑞々しい感性と、熟練した作曲技法が見事に融合した傑作となっています。

「第3番」だけど実は最後の交響曲

メンデルスゾーンの交響曲には1番から5番までの番号がついていますが、これは出版された順番であり、作曲された順番とは異なります。実は、この第3番『スコットランド』は、5つの交響曲の中で最後に完成された作品です。

第1番は15歳の時の作品、第5番『宗教改革』や第4番『イタリア』もこれより前に書かれています。つまり、番号こそ「3番」ですが、実質的にはメンデルスゾーンが到達した交響曲の集大成ともいえる深みを持った作品なのです。彼の短い生涯の最後を飾る、極めて完成度の高いオーケストラ作品といえるでしょう。

全4楽章の聴きどころと構成を徹底解説

ここでは、曲の具体的な中身について触れていきます。この交響曲には、他の曲にはないユニークな特徴があります。それは「全楽章を休みなく続けて演奏する」という点です。音楽の流れを途切れさせないことで、ひとつの大きな物語のような統一感を生み出しています。

切れ目なく演奏される「アタッカ」の効果

通常、交響曲は楽章の間に数秒の間を置きますが、メンデルスゾーンはこの曲の楽譜に「アタッカ(attacca)」という指示を書き込みました。これは「間を空けずに次の楽章へ進む」という意味です。

これにより、第1楽章の重苦しい空気がそのまま第2楽章の軽快さへと繋がったり、静かな第3楽章から情熱的なフィナーレへと一気に突入したりと、劇的な場面転換が可能になります。聴いている側も集中力を途切れさせることなく、約40分間の音楽の世界に没頭できるのが大きな魅力です。

第1楽章:霧に包まれた古城の風景

曲の始まりは、管楽器とヴィオラ、チェロによる、低く静かな旋律です。これが、メンデルスゾーンが廃墟で思いついたという有名なテーマです。まるで深い霧の中から、古い石造りの建物がぼんやりと姿を現すような、神秘的で寂しげな雰囲気が漂います。

その後、テンポが上がり「アレグロ」の主部に入りますが、ここでも哀愁を帯びたメロディが支配的です。時折、嵐のように激しくなる部分もあり、北の海の荒々しさや、歴史の重みを感じさせます。バイオリンパートも、細かい音符で波のうねりのような表現を求められる、非常に美しい楽章です。

第2楽章:スコットランド民謡風のスケルツォ

第1楽章から切れ目なく続く第2楽章は、一転して軽快で明るい音楽になります。ここで登場する有名なクラリネットのメロディは、「スコットランド民謡」のスタイルを取り入れています。

専門的な話を少しすると、このメロディは「ヨナ抜き音階」に近い、ペンタトニック(5音音階)と呼ばれる音の並びでできています。これは日本の民謡にも通じる独特の響きを持っており、私たち日本人にとってもどこか懐かしく、親しみやすい雰囲気を感じさせます。小刻みに動く弦楽器の上で、木管楽器が楽しげに歌う、まさに「ハイランド地方の舞曲」といった趣です。

第3楽章:美しい歌があふれるアダージョ

ゆったりとしたテンポで奏でられる第3楽章は、メンデルスゾーンのメロディメーカーとしての才能が遺憾なく発揮された部分です。冒頭の短い導入のあと、第一バイオリンが甘く切ない、息の長い旋律を奏で始めます。

この美しさは、彼の有名な『バイオリン協奏曲』の第2楽章を彷彿とさせます。途中、葬送行進曲のような重々しいリズムが現れ、不吉な影を落としますが、それを乗り越えて再び美しい歌が戻ってきます。弦楽器奏者にとっては、もっとも感情を込めて歌い上げたい、聴かせどころの楽章です。

第4楽章と壮大なコーダ

静かな第3楽章が終わると、突然激しいリズムとともに第4楽章が始まります。ここでは「戦い」を思わせるような、勇壮で情熱的な音楽が展開されます。バイオリンも弓を激しく動かし、緊迫感のあるパッセージが続きます。

そして、この曲の最大の見せ場が最後に待っています。激しい短調の音楽が静まると、テンポがゆったりと変わり、イ長調の輝かしいファンファーレのような新しいテーマが現れるのです。これは、霧が晴れて太陽の光が差し込むような、あるいは女王の威厳を称えるような、圧倒的な肯定感に満ちたフィナーレです。この感動的なコーダ(終結部)によって、長い物語はハッピーエンドで幕を閉じます。

バイオリン弾きが注目すべき演奏ポイント

もしあなたがバイオリンを弾く方であれば、ただ聴くだけでなく「演奏する視点」でもこの曲を楽しめるはずです。メンデルスゾーンは自身もバイオリンやヴィオラを弾くことができたため、弦楽器の使い方が非常に巧みです。

バイオリン協奏曲に通じる「歌」の表現

メンデルスゾーンの音楽の特徴は、なんといっても「流れるような優雅さ」です。『スコットランド』においても、第一バイオリンには非常に美しい、歌うようなフレーズがたくさん与えられています。

特に第1楽章の導入部や第3楽章では、弓をたっぷりと使い、滑らかなレガート(音を途切れさせずに滑らかに弾くこと)で演奏することが求められます。右手首の柔らかい使い方や、ビブラートの深さのコントロールなど、まさにバイオリン協奏曲を弾くときのような繊細な表現力が試される場面です。

第2楽章での軽やかな弓さばき

第2楽章のスケルツォ(急速な舞曲風の楽章)では、右手首の柔軟性が非常に重要になります。ここでは速いテンポの中で、細かく軽い音を連続して弾かなければなりません。

弓を弦に押し付けるのではなく、少し浮かせるような感覚で、軽やかに弾むような音色を作ることがポイントです。オーケストラ全体でこの軽やかさが揃ったとき、まるで妖精が飛び回っているかのような、メンデルスゾーン特有の魔法のような響きが生まれます。ここは腕の見せ所であり、練習のしがいがあるパートです。

トレモロによる風景描写

オーケストラにおける弦楽器の重要な役割の一つに「背景を作る」という仕事があります。この曲では、細かい音を小刻みに弾き続ける「トレモロ」という奏法が多く登場します。

例えば第1楽章の嵐のような場面や、第4楽章の緊迫した場面では、弦楽器全体でザワザワとしたトレモロを奏でることで、風の音や波のしぶき、空気の振動などを表現しています。自分がメロディを弾いていないときでも、こうした「音の風景」を描く重要な役割を担っていることを意識すると、より深く曲に入り込めるでしょう。

スコットランドの風景が見える?背景とエピソード

楽曲の理解をさらに深めるために、作曲にまつわる興味深いエピソードをいくつか紹介します。これらを知っておくと、音楽を聴いたときに思い浮かぶ情景がより鮮やかになるかもしれません。

ヴィクトリア女王への献呈

この交響曲は、当時のイギリス女王であるヴィクトリア女王に捧げられました。メンデルスゾーンはイギリス王室と親しい関係にあり、特にヴィクトリア女王とその夫アルバート公は、メンデルスゾーンの音楽を高く評価していました。

1842年にロンドンでこの曲を指揮した際、メンデルスゾーンはバッキンガム宮殿に招かれ、女王から直接賛辞を受けたと言われています。第4楽章の最後の壮大なコーダは、まるで女王の威光を称えるかのような響きを持っており、この献呈のエピソードと重ね合わせて聴くと、より一層神々しく感じられます。

『イタリア』との対比を楽しむ

メンデルスゾーンには、同じく旅行からインスピレーションを得た交響曲第4番『イタリア』があります。この2曲は、しばしば対照的な作品として語られます。

『イタリア』
南国の太陽、青い空、明るく開放的な長調の響き。リズムも躍動感にあふれています。

『スコットランド』
北国の霧、古い石畳、哀愁を帯びた短調の響き。しっとりとした情感と重厚さがあります。

どちらもメンデルスゾーンの代表作ですが、その性格は正反対です。その日の気分に合わせて聴き分けたり、あるいは2曲続けて聴くことで、ヨーロッパの南北の空気感の違いを味わったりするのも、粋な楽しみ方といえるでしょう。

霧と廃墟のイメージ

この曲を聴くとき、多くの人が「霧」や「水」のイメージを持ちます。実際、スコットランドは天候が変わりやすく、霧雨が降ることも多い地域です。

メンデルスゾーンの手紙には、廃墟となった礼拝堂で「雨と蔦(つた)に覆われ、空がむき出しになった」様子を見て、寂寥感を感じたことが記されています。華やかな社交界に生きた彼が、ふと触れた「孤独」や「歴史の無常」が、この音楽の根底に流れています。派手なだけではない、心に染み入る深さがこの曲の魅力です。

おすすめの名盤と演奏動画の選び方

最後に、この名曲をより楽しむために、おすすめの演奏や選び方のヒントをご紹介します。指揮者やオーケストラによって、曲の表情は驚くほど変わります。

まずはスタンダードな名演を

最初に聴く一枚としておすすめなのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。弦楽器の美しさに定評があるベルリン・フィルの豊潤な響きは、メンデルスゾーンの旋律美を最大限に引き出しています。レガートの滑らかさや、音の厚みを感じたい方に最適です。

また、クラウディオ・アバド指揮、ロンドン交響楽団の演奏も人気があります。アバドの指揮は非常に歌心があり、かつリズムがいきいきとしているため、曲が重くなりすぎず、颯爽とした『スコットランド』を楽しむことができます。

通好みの「ペーター・マーク」

クラシックファンの間で「メンデルスゾーンといえばこの人」と言われるのが、指揮者のペーター・マークです。彼はこの『スコットランド』を得意としており、特に第3楽章の歌わせ方や、独特の柔らかい雰囲気に定評があります。

彼の演奏は、派手さよりも「詩情」を大切にしており、スコットランドの霧のかかった風景が目の前に浮かぶような、味わい深い演奏です。もしスタンダードな演奏を聴いたあとに別の解釈を探しているなら、ぜひ聴いてみてください。

編成による響きの違い

最近では、メンデルスゾーンが作曲した当時の楽器や奏法を再現した「古楽器(ピリオド楽器)」による演奏も増えています。これらは、現代のオーケストラよりも編成が小さく、音がシャープで透明感があります。

重厚なロマン派の響きで聴くか、あるいは作曲当時のスッキリとした響きで聴くか。YouTubeなどで聴き比べてみると、同じ曲でも全く違う印象を受けることに驚くはずです。特に第2楽章の軽快さは、小編成のオーケストラで聴くと、より一層際立って聞こえることがあります。

まとめ:メンデルスゾーン『スコットランド』で深める音楽の旅

まとめ
まとめ

今回は、メンデルスゾーンの交響曲第3番『スコットランド』について、その魅力や背景を詳しく解説してきました。最後に改めて、この曲のポイントを振り返ってみましょう。

記事のポイント

・スコットランド旅行での「廃墟の礼拝堂」の印象が元になっている。
・完成まで13年を要した、メンデルスゾーン実質最後の交響曲。
・全4楽章が休みなく演奏(アタッカ)され、物語のような統一感がある。
・バイオリンにとっては、美しい「歌」と高度な「弓のコントロール」が楽しめる曲。
・哀愁漂う短調から、最後は輝かしい長調で終わる感動的なフィナーレ。

『スコットランド』は、メンデルスゾーンの繊細な感性と、熟練した作曲技術が見事に結実した名作です。バイオリンを弾く人にとっては、その旋律の美しさに共感しやすく、またオーケストラの響きの中に身を置く心地よさを感じられる作品でもあります。

次にこの曲を聴くときは、ぜひ霧のかかった北国の古城や、若きメンデルスゾーンの旅路に思いを馳せてみてください。きっと、これまで以上に深く、心に響く音楽体験ができるはずです。

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