バイオリンを習い始めるとき、最初につまずきやすいのが「弓の持ち方」です。バイオリンの弓は、ただ握れば良いというわけではなく、指一本一歩の配置に意味があり、それが音色に直結します。実はこの持ち方には、歴史的な背景から生まれたいくつかの「流派」が存在することをご存知でしょうか。
現代で主流となっている持ち方は主に3つあり、それぞれに指の角度や力の入れ方に特徴があります。自分がどのスタイルで学んでいるのかを知ることは、上達への近道となります。この記事では、バイオリンの弓の持ち方の基本から、主要な流派の違い、そして初心者が美しい音を出すためのポイントまで、わかりやすく丁寧に解説していきます。
バイオリンの弓の持ち方と流派による特徴の違い

バイオリンの弓の持ち方には、大きく分けて「フランス・ベルギー派」「ドイツ派」「ロシア派」という3つの伝統的なスタイルがあります。これらは長い歴史の中で、演奏スタイルや楽器の進化に合わせて確立されてきました。現代の演奏家の多くはこれらを組み合わせたハイブリッドな持ち方をしていますが、基本の型を知ることは重要です。
エレガントな音色を生むフランス・ベルギー派
フランス・ベルギー派は、現代のバイオリン演奏において最も一般的で標準的とされる持ち方です。この流派の最大の特徴は、右手の指を比較的「丸く」保ち、柔軟性を重視する点にあります。人差し指から小指までがバランスよく配置され、弓の毛に対して垂直に近い角度で指を置きます。
この持ち方のメリットは、なんといっても音色の美しさと多彩な表現力です。指の関節をクッションのように使えるため、弓の返し(アップボウとダウンボウの切り替え)が非常にスムーズになります。また、繊細なニュアンスを表現しやすく、室内楽からソロまで幅広く対応できる万能なスタイルと言えます。
学習者の多くはこのスタイルからスタートすることが多いです。中指と薬指を弓の「フロッグ(毛を固定している黒いパーツ)」の部分に軽く添え、親指をその反対側に置くことで、無駄な力を抜いた自然なフォームが作られます。指全体で弓を優しく包み込むようなイメージで持つのがポイントです。
力強さと安定感があるロシア派
ロシア派の持ち方は、ハイフェッツなどの巨匠たちが採用していたことで知られる、非常にパワフルなスタイルです。最大の特徴は、人差し指を深く弓にかけ、手の甲を高く持ち上げる点にあります。人差し指の第2関節あたりが弓に触れるため、腕の重さを効率よく弓に伝えることができます。
このスタイルは、広大なホールでも響き渡るような大きな音を出すのに適しています。人差し指を深くかけることで、弓の根元から先まで一定の圧力をかけ続けやすく、重厚で芯のある音色が得られます。一方で、指の関節を固定気味にするため、フランス・ベルギー派に比べると指先の細かな柔軟性よりも腕全体のダイナミズムを活かした演奏に向いています。
手の形が少し独特になるため、慣れるまでは人差し指に力が入りすぎてしまうこともありますが、習得すれば圧倒的な音量を手に入れることができます。特に大編成のオーケストラの中でソロを弾く際など、力強いプロジェクション(音の飛ばし方)が必要な場面で真価を発揮する持ち方と言えるでしょう。
質実剛健な伝統を守るドイツ派
ドイツ派の持ち方は、歴史の古いスタイルで、現代では見かける機会が少なくなっていますが、一部の伝統的なメソッドでは今も教えられています。特徴としては、人差し指を浅くかけ、全体的に指を伸ばし気味に持つ点です。ロシア派とは対照的に、手の位置が低くなる傾向があります。
この持ち方は、バロック音楽などの古楽に近いニュアンスや、素朴でクリアな音色を出すのに適しています。現代の太く輝かしい音色を求める傾向とは少し異なりますが、明快なアーティキュレーション(音の区切りや表情付け)を表現しやすいという利点があります。指の関節をあまり曲げないため、独特の安定感があります。
現在ではドイツ派の奏者であっても、フランス・ベルギー派の要素を取り入れた「新ドイツ派」的なアプローチが主流です。しかし、古い楽譜の解釈や特定の音響効果を狙う際には、この伝統的な持ち方のエッセンスが役立つことがあります。歴史を知ることで、自分の持ち方のルーツを深く理解できるようになります。
自分に合った流派の選び方と現代の傾向
どの流派が一番優れているということはありません。現代では、それぞれの流派の良いところを取り入れた持ち方が一般的です。基本的には、習っている先生の持ち方を踏襲するのが上達の最短ルートです。先生の音色の出し方やテクニックは、その持ち方を前提に組み立てられているからです。
自分の手の大きさや指の長さ、関節の柔らかさによっても、最適な持ち方は微妙に異なります。指が長い人はフランス・ベルギー派の丸みが作りやすく、手の小さい人はロシア派の深いホールドが安定しやすいといった傾向はありますが、最終的には「無駄な力が入らず、思い通りの音が出せるか」が基準になります。
大切なのは、特定の流派の形を完璧に模倣することではなく、なぜそのような形になっているのかという理屈を理解することです。「圧力を加えるため」「柔軟性を保つため」といった目的意識を持ってフォームを作れば、自分にとって最も自然で響きの良い持ち方が自然と見つかっていくはずです。
正しい弓の持ち方の基本ステップと各指の役割

流派による細かな違いはあっても、共通する「正しい持ち方の土台」が存在します。バイオリンの弓を正しく持つことは、美しい音を出すための第一歩です。ここでは、初心者がまず身につけるべき基本的な指の配置と、それぞれの指が果たす役割について詳しく解説していきます。
弓を持つ前のセルフチェック
1. 右手の力を抜き、ぶらんと下げます。
2. そのままの手の形のまま、ゆっくりと持ち上げます。
3. 指が軽く曲がった自然な「キツネの手」のような形が、理想的な基本姿勢です。
親指の配置:すべての動きの支点
弓の持ち方において、最も重要でありながら間違いやすいのが親指です。親指は弓の裏側、フロッグ(毛箱)の角と革巻きの境界線あたりに置きます。重要なのは、親指の第一関節を外側に軽く曲げること(突っ張らないこと)です。親指が真っ直ぐ伸びて突っ張ってしまうと、手全体の筋肉が緊張してしまいます。
親指は弓を支える支点としての役割を果たします。しかし、親指だけで弓を持ち上げようとしてはいけません。親指の先端の横側を弓にそっと添えるイメージで、他の指と対立する形を作ります。この親指の柔軟性が、弓の返しやスムーズな移弦(弾く弦を変える動作)を可能にする鍵となります。
親指の位置が深すぎたり浅すぎたりすると、手首の動きが制限されてしまいます。指の腹ではなく、爪の横の角あたりが弓の棒(スティック)に触れるように意識すると、関節が自然に曲がりやすくなります。練習中も親指が固まっていないか、こまめに確認する癖をつけましょう。
人差し指の役割:音量と圧力をコントロール
人差し指は、弓に圧力をかけて音量を調節する司令塔のような役割を担います。フランス・ベルギー派では第1関節と第2関節の間あたりを、ロシア派ではさらに深い第2関節あたりを弓に乗せます。人差し指を通じて、腕の重さをスティックに伝えていきます。
初心者に多い間違いは、人差し指で弓を無理に「押し下げる」ことです。これでは音が潰れてしまい、汚い音になってしまいます。正しくは、腕の自重を人差し指を通して弓に「乗せる」感覚です。人差し指を少し離した位置(親指よりも少し先の方)に置くことで、テコの原理を利用して楽に圧力をかけることができます。
また、人差し指は弓の角度を微調整する役割もあります。ダウンボウの時には人差し指で少しリードし、弓が弦に対して垂直に走るようにガイドします。指の中でも特に敏感な部分なので、弦の振動を指先で感じ取るようなイメージを持つと、音質のコントロールが格段に向上します。
中指と薬指の役割:安定感とバランスの保持
中指と薬指は、弓を横から支えて安定させる役割があります。中指は親指のちょうど向かい側あたりに配置し、薬指はその隣に自然に並べます。多くの流派では、中指と薬指の先がフロッグにある「アイ(丸い装飾)」の付近にくるようにします。これにより、弓が左右にグラつくのを防ぎます。
これらの指は強く握る必要はありません。むしろ、弓の毛に軽く触れるか触れないか程度の深さまで指を下ろし、フロッグを包み込むようにします。薬指の腹がフロッグの側面に優しく触れていることで、手の位置が安定し、弓のコントロールがしやすくなります。この2本の指が離れすぎたり、逆にくっつきすぎたりしないよう注意が必要です。
中指と薬指が安定していると、弓を弦に乗せたときの安心感が違います。特に薬指は、小指の補助的な役割も果たしており、弓の根元で弾く際に弓の重さを支えるのを助けてくれます。手のひらの中に卵をふんわり持っているような、ゆとりのある空間を作るのが理想的です。
小指の役割:弓の重さを調節するバランス調整
小指は、バイオリンの弓の持ち方において最も繊細なコントロールを要求される指です。小指はスティックの真上に「ちょんと乗せる」だけですが、その役割は重大です。特に弓の根元(元弓)で弾く際、弓が重くなりすぎるのを防ぐために、小指で弓を押し返してバランスをとります。
小指を置く位置は、フロッグの少し上、スティックの平面またはやや自分側の角です。重要なのは小指を丸く曲げて、突っ張らないようにすることです。小指が伸び切ってしまうと、手首が硬くなり、滑らかなボウイングができなくなります。指先がスティックの上で自由に動けるような、柔軟なフォームを目指しましょう。
弓の先(先弓)で弾くときは、小指の仕事はほとんどありませんが、根元に近づくにつれて小指の踏ん張りが必要になります。このように、演奏する弓の場所に合わせて常に役割が変化するため、小指のトレーニングはバイオリン上達において避けては通れない道です。小指の筋肉を鍛えるというよりは、柔軟にバランスをとる感覚を養うことが大切です。
初心者が陥りやすい持ち方のNGパターンと改善法

バイオリンの弓の持ち方を練習していると、無意識のうちに変な癖がついてしまうことがあります。これらの癖は、上達を妨げるだけでなく、最悪の場合は手首や指を痛める原因にもなりかねません。ここでは、よくある失敗例とその具体的な改善方法について紹介します。
「握りしめすぎ」による右手の硬直
初心者が最もやってしまいがちなのが、弓を落とすまいとして指全体でギュッと握りしめてしまうことです。弓を強く握ると、手の平の筋肉が固まり、手首や肘の動きまで制限されてしまいます。その結果、ギシギシとした硬い音になり、長時間の練習で手が疲れやすくなります。
この状態を改善するには、「弓の自重」を感じる練習が効果的です。まず、左手で弓のスティック部分を持ち、空中で固定します。その状態で、右手を正しい形に添えます。そこから、左手の力を少しずつ抜いていき、右手で必要最低限の力だけを使って弓を支える練習をしてみてください。驚くほど少ない力で弓を保持できることに気づくはずです。
練習中に「指が白くなっている」ときは、力が入りすぎているサインです。時々弓を弦から離して、右手をブラブラと振ってリセットしましょう。弓は「握る」ものではなく、指という複数のパーツで「支える」ものであるという意識改革が必要です。
小指が突っ張ってしまう「棒立ち小指」
先ほども触れましたが、小指が真っ直ぐに伸びきってしまう状態は、非常に多いNGパターンです。小指が突っ張ると、手首のクッションが機能しなくなり、ダウンボウからアップボウへの切り替えで音が途切れたり、アクセントがついてしまったりします。また、小指の付け根が痛くなる原因にもなります。
改善のためには、まず指の長さをチェックしましょう。小指が短い人は、無理にスティックの真上に置こうとせず、少し手前(自分側)に置くことで関節を曲げやすくなる場合があります。また、弓を持っていないときに、机の上などで指を丸くしてトントンと叩く運動をし、小指を曲げた状態で動かす感覚を覚えさせましょう。
実際の演奏では、弓を動かすたびに小指の曲がり具合が微妙に変化するのが正常です。鏡を見て、自分の小指が常に柔らかくカーブを描いているか確認してください。小指の柔軟性が生まれると、弓のコントロールが格段に楽になり、繊細な音色の変化をつけられるようになります。
親指が逆反り、または真っ直ぐになる
親指が内側に折れ曲がったり、逆に外側に反り返りすぎてしまうのもよくある問題です。特に親指が真っ直ぐ伸びてスティックに突き刺さるような形になると、手の中の空間が潰れてしまい、柔軟な動きが一切できなくなります。親指は手全体の「動きの要」なので、ここが固まると致命的です。
これを直すには、親指の関節が常に「外側に膨らんでいる」状態を意識しましょう。親指を丸く保つことで、親指と他の指との間に丸い空間(ドーナツのような形)ができます。この空間が潰れないようにキープしながら、弓を上下に動かす練習をゆっくり行います。鉛筆などを弓に見立てて、テレビを見ながら親指を曲げる練習をするのも効果的です。
親指が反ってしまう原因の多くは、人差し指や小指とのバランスが崩れていることにあります。人差し指で押しすぎると親指が踏ん張ってしまい、小指を浮かせると親指に負担がかかります。全ての指が協力し合って、どこか一点に負担が集中しないフォームを目指すことが、親指の健康を保つ秘訣です。
手首が高すぎたり低すぎたりする不安定なフォーム
弓の持ち方そのものは合っていても、手首の位置が不自然だと全体のフォームが崩れます。手首が異常に高くなっている(幽霊の手のようになっている)状態や、逆にベタッと低くなってスティックに触れそうな状態はNGです。手首の角度が極端だと、腕の重さが適切に弦に伝わりません。
理想的な手首の状態は、前腕から手の甲にかけてがほぼ平ら、あるいはわずかに山なりになっている状態です。鏡を見て、自分の右手のラインがスムーズな曲線を描いているかチェックしましょう。手首はボウイングの際、弓の動きに合わせて上下にしなやかに動く必要がありますが、基本の構えでは「中庸」の位置を保つことが大切です。
手首の位置が安定しない場合は、肘の高さを見直してみるのも一つの手です。肘が下がりすぎていると手首が無理に持ち上がり、肘が高すぎると手首が沈み込む傾向があります。右腕全体を一つのユニットとして捉え、肩・肘・手首・指先が連動して動くイメージを持つと、不自然な手首の角度は解消されていきます。
練習中にどうしても力が抜けないときは、深呼吸をして一度楽器を置きましょう。正しい持ち方は一朝一夕には身につきません。焦らず「楽に持てるポイント」を毎日少しずつ探していくことが、美しいフォームへの一番の近道です。
美しい音色を出すためのボウイングのコツ

正しい持ち方が身についたら、次はいよいよ弓を動かす「ボウイング」です。持ち方は静止画のようなものですが、ボウイングは動画です。動いている間も正しい持ち方をキープし、かつ弦に対して適切な圧力とスピードを与え続ける必要があります。ここでは、美しい音を生むための実践的なコツをまとめました。
弓を弦に対して常に垂直に保つ
良い音を出すための絶対条件は、弓が駒(ブリッジ)と指板に対して平行に、つまり弦に対して垂直に当たっていることです。弓が斜めに滑ってしまうと、音がカサついたり、ひっくり返ったりしてしまいます。しかし、自分の目線からでは弓がまっすぐかどうか判断しにくいものです。
垂直を保つコツは、腕を「横に伸ばす」のではなく、「肘を基点に開閉する」イメージを持つことです。弓の先に行くほど、手首を少し前に出し、人差し指で弓を少しガイドするようにします。逆に根元に戻るときは、肘を後ろに引くのではなく、手首を柔らかく畳み込むように動かします。鏡の前に横向きに立ち、弓が床と平行に、そして弦と直角に動いているか頻繁に確認しましょう。
垂直が保てない原因の多くは、肩に力が入っていることにあります。肩が上がってしまうと、腕の可動域が制限され、弓の軌道が歪んでしまいます。右肩をリラックスさせ、腕の重みが自然に弦に乗るように意識するだけで、弓の軌道は驚くほど安定します。真っ直ぐなボウイングは、美しいロングトーン(長く伸ばす音)の基本です。
「圧力」「スピード」「接点」の黄金バランス
バイオリンの音色を決定する3要素は、「弓の圧力(重さ)」「弓を動かすスピード」「弦と弓が触れる位置(接点)」です。これら3つのバランスが崩れると、良い音は出ません。例えば、圧力が強いのにスピードが遅いと、音は潰れてギギギと鳴ります。逆に、圧力が弱いのにスピードが速すぎると、芯のないスカスカした音になります。
まずは、駒と指板のちょうど中間あたり(接点)で、一定のスピードと一定の重さで弾く練習から始めましょう。重さは無理に押し付けるのではなく、右腕全体の重みが指先を通じて弓に乗っている状態を作ります。この「乗せるだけ」の感覚を掴めると、音の響きが劇的に変わります。
上達してくると、曲の表情に合わせてこれらを変化させます。大きな音を出したいときは、少し駒寄りをゆっくり強い圧力で、あるいは指板寄りを速いスピードで弾くなど、組み合わせは無限です。自分が今どんな音を出したいのかを考え、それに適した3要素の配合を実験するように練習してみるのがおすすめです。
弓の返し(アップとダウン)を滑らかにする方法
ダウンボウ(下げ弓)からアップボウ(上げ弓)に切り替わる瞬間、音がガクッと途切れたり、不要なアクセントがついたりしていませんか。この「弓の返し」こそ、バイオリン演奏の美しさを左右するポイントです。滑らかな返しを実現するには、手首と指の関節の柔軟性が不可欠です。
返しをスムーズにするには、切り替わる直前に手首が先行して動くようにします。例えば、ダウンからアップに変わる瞬間、まず手首がわずかに上に動き出し、その動きに指と弓が後からついてくるような「時間差」を作ります。これは書道の筆使いや、ペンキを塗るハケの動きによく例えられます。硬い棒を動かすのではなく、しなやかな鞭を扱うようなイメージです。
このとき、小指と親指の関節がクッションの役割を果たします。衝撃を吸収するように指がわずかに屈伸することで、音の継ぎ目が聞こえなくなります。練習方法としては、開放弦(左手で何も押さえない状態)で、超スローテンポで弓の返しを練習するのが効果的です。自分の耳を限界まで集中させ、音が変わった瞬間がわからないほどの滑らかさを追求してみましょう。
移弦(弦の乗り換え)をスムーズに行うテクニック
E線からA線、D線へと弾く弦を変える「移弦」も、ボウイングの重要な技術です。移弦がバタバタしてしまうと、フレーズが途切れて聞こえます。スムーズな移弦のコツは、腕の「高さ」をあらかじめ次の弦の準備段階まで動かしておくことです。
バイオリンの4本の弦は円弧状に並んでいるため、それぞれの弦を弾くときの右肘の高さが異なります。E線が最も低く、G線が最も高くなります。移弦する際、弓だけを動かそうとせず、肘の高さを滑らかに変えることで、弓が自然に次の弦に吸い付くように移動します。カクカクとした動きではなく、波を描くような滑らかな肘の動きを意識してください。
また、最小限の動きで移弦することも大切です。弦と弦の距離は意外と近いため、大きな動きは必要ありません。手首のわずかな回転を利用して、弓を「転がす」ように移弦する感覚を身につけると、速いパッセージでも音がクリアに聞こえるようになります。移弦の瞬間に持ち方が崩れやすいので、常に指の形をキープすることを忘れないでください。
バイオリンの弓の持ち方を安定させるための練習メニュー

正しい持ち方を頭で理解しても、実際に弾き始めるとすぐに形が崩れてしまうものです。これは指の細かい筋肉がバイオリン専用の動きに慣れていないためです。ここでは、日常生活の中でもできる簡単なトレーニングや、楽器を使った基礎練習を通じて、持ち方を定着させる方法を提案します。
鉛筆トレーニングで指の筋力を養う
弓を持つ前に、あるいは楽器が手元にないときにできるのが「鉛筆トレーニング」です。バイオリンの弓は重いため、初心者は支えるだけで精一杯になりがちですが、軽い鉛筆なら指の形に集中できます。鉛筆を弓に見立てて、正しい配置で持ってみましょう。
まず、鉛筆を正しいフォームで持ち、そのまま縦にしたり横にしたりします。その際、どの角度になっても小指が丸まっているか、親指が反っていないかを確認します。次に、鉛筆を垂直に持ち、指の屈伸だけで鉛筆を上下に登らせたり降りさせたりする「スパイダートレーニング」がおすすめです。これにより、指一本一歩の独立性と柔軟性が養われます。
この練習のメリットは、場所を選ばずに行えることです。仕事や勉強の合間に数分行うだけで、右手の柔軟性が飛躍的に向上します。弓を持つための筋肉は普段の生活ではあまり使わない部分なので、こうした小さな積み重ねが、実際に弓を持ったときの安定感へと繋がっていきます。
弓のバランスを感じる「シーソー練習」
弓の重さのバランス感覚を養うための練習です。まず、弓を正しい持ち方で構え、弦の上に置きます(できれば中間の位置)。そこから、音を出さずに小指で弓を押し下げたり、人差し指で少し重みをかけたりして、弓が弦の上で「浮く・沈む」感覚を味わってみましょう。
弓の根元(元弓)では、弓が倒れようとする力を小指で支える「シーソーの原理」を体感します。逆に先弓では、弓が軽くなる分、人差し指を通して腕の重さを伝える必要があります。このように、音を出さずに弓を弦の上でスライドさせながら、各指にかかる負荷の変化を観察してください。
この練習を行うことで、「弓は常に同じ力で持てば良いわけではない」ということが身体で理解できるようになります。状況に応じて指の力を配分できるようになると、ボウイングが格段に自由になり、右手の疲れも軽減されます。弦と弓が対話しているような感覚を持てれば、上達は目前です。
メトロノームを使った超スロー・ボウイング
実際に音を出す練習では、メトロノームを使って極限までゆっくりと弓を動かす練習が効果的です。テンポ60で、1拍につき1センチ進むくらいのイメージで、全弓(根元から先まで)を使って弾いてみます。ゆっくり動かすと、少しでも指に力が入ったり、持ち方が崩れたりしたときに、音がすぐに震えて教えてくれます。
1ストロークに20秒から30秒かけるつもりで、音を一定に保つことに集中します。この練習の間、常に自分の右手の指の状態をスキャンし続けてください。「今、小指が突っ張った」「親指が固くなった」という気づきが、最高の矯正トレーニングになります。美しいロングトーンが出せるようになれば、持ち方の土台が完成した証拠です。
単調な練習ですが、プロの演奏家も日常的に行う非常に重要な基礎練習です。音が震えず、カスれず、芯のある音が最後まで響き続けるポイントを見つけ出しましょう。この練習で得た「リラックスした中での安定」は、速い曲や激しい曲を弾く際にも必ずあなたを助けてくれます。
鏡を使ったセルフチェック習慣
最後にして最も重要なのが、鏡を見て練習することです。バイオリンを構えると、自分の右手の形は斜めからしか見えず、正確なフォームが分かりません。鏡に対して垂直に、または平行に立ち、ボウイングの全過程を視覚的にチェックする習慣をつけましょう。
鏡を見るポイントは以下の通りです。
| チェック項目 | 良い状態 | 注意が必要な状態 |
|---|---|---|
| 小指の形 | 丸くアーチを描いている | 真っ直ぐ突っ張っている |
| 親指の関節 | 外側に曲がっている | 内側に折れている、または反っている |
| 弓の軌道 | 弦に対して常に垂直 | 左右に大きく振れている |
| 肩の高さ | 左右で大きな差がなくリラックス | 右肩が耳に近づくほど上がっている |
自分の姿を客観的に見ることで、先生から指摘されていることの意味が深く理解できるようになります。また、憧れの奏者の動画と自分のフォームを比較してみるのも良い刺激になります。目で見ること、耳で聞くこと、そして指先で感じること。これら全ての感覚を研ぎ澄ませて、理想の持ち方を追求していきましょう。
バイオリンの弓の持ち方と流派に関するまとめ
バイオリンの弓の持ち方は、単なる形の模倣ではなく、美しい音を自由に奏でるための機能的な仕組みです。フランス・ベルギー派、ロシア派、ドイツ派といった歴史的な流派にはそれぞれの理論がありますが、現代においては、リラックスした状態で弓の自重を最大限に活用する持ち方が理想とされています。
正しい持ち方を習得するためには、各指の役割を理解し、特に親指と小指の柔軟性を保つことが欠かせません。初心者が陥りやすい「握りすぎ」や「関節の硬直」を防ぐには、日々の鉛筆トレーニングや鏡を使ったセルフチェックが非常に有効です。一朝一夕で身につくものではありませんが、丁寧な基礎練習を積み重ねることで、必ず指先は応えてくれます。
弓の持ち方が安定し、右手の無駄な力が抜けるようになると、バイオリンは驚くほど豊かな響きを聴かせてくれるようになります。音が変わる瞬間を楽しみながら、自分にとって最も自然で心地よい「魔法の杖」の扱い方を見つけていってください。この記事が、あなたのバイオリン演奏をより楽しく、実りあるものにする一助となれば幸いです。



