バイオリンを習っていると、発表会での選曲や、日々の練習で使う楽譜のコピー、あるいは「弾いてみた」動画のSNS投稿など、音楽著作権に関わる場面によく遭遇します。「みんなやっているから大丈夫」と思っていても、実は知らないうちに法律違反をしてしまっているかもしれません。逆に、正しいルールを知っていれば、もっと自由に安心して音楽活動を楽しむことができます。
この記事では、バイオリンなどの楽器演奏者が特に迷いやすい「著作権の境界線」について、専門的な言葉をなるべく使わずにやさしく解説します。自分の身を守り、作曲家への敬意を払うためにも、正しい知識を身につけましょう。
音楽著作権どこまで許される?基本の「私的利用」とは

著作権法には「私的利用のための複製」というルールがあります。これは、「個人的に、または家庭内などの限られた範囲で使用する場合」に限り、著作権者の許可なくコピー(複製)をしても良いという決まりです。しかし、この「限られた範囲」という言葉が誤解を生みやすいポイントでもあります。
家での練習や家族と楽しむ場合
自宅のリビングや防音室で、自分一人で練習するために楽譜をコピーしたり、好きな曲を演奏したりすることは、完全に「私的利用」の範囲内です。また、家族の前で演奏したり、親しい友人を数人招いてホームパーティーでBGMとして演奏したりすることも問題ありません。この段階では、誰かに許可を取る必要はなく、自由に音楽を楽しむことができます。
友人の結婚式で演奏するのは?
友人の結婚式での演奏は、「特定少数の範囲」とみなされることが多く、基本的には私的利用の延長として考えられるケースが一般的です。ただし、これが結婚式場の「商用サービス」として組み込まれている場合や、演奏によって謝礼(お金)を受け取る場合は話が変わってきます。あくまで「友人としてのお祝いの余興」であり、無報酬であることが重要なポイントです。
録音や録画を個人で楽しむ範囲
自分の演奏をチェックするために録音したり、記念としてビデオに残して家族で見返したりすることは、私的利用の範囲内です。レッスン中に先生の模範演奏を録音する場合も、あくまで「自分の復習用」として先生の許可を得ていれば、著作権法上の問題にはなりません。しかし、そのデータを無断で友人に送ったり、ネット上で公開したりすると、私的利用の枠を超えてしまいます。
【重要】SNSへの投稿は私的利用に含まれない
ここが最も勘違いしやすいポイントです。「個人の趣味のアカウントだから」という理由で、演奏動画をYouTubeやInstagram、X(旧Twitter)にアップロードする行為は、「私的利用」には含まれません。 インターネット上に公開した時点で、不特定多数の人が見られる状態になるため、法律上は「公衆送信」という扱いになります。これには適切な手続きや、プラットフォーム側のルールに従う必要があります。
発表会やコンサートでの演奏!手続きが必要なケース・不要なケース

バイオリン教室の発表会や、アマチュアオーケストラの演奏会を開く際、著作権の手続きが必要かどうか迷うことがあります。実は、特定の条件をすべて満たせば、手続きなしで自由に演奏できるという特例があります。
著作権法第38条「営利を目的としない演奏」
著作権法第38条では、以下の3つの条件をすべて満たす場合に限り、著作権者の許諾なく演奏しても良いと定めています。
【手続き不要の3条件】
1. 営利を目的としていないこと(非営利)
2. 観客から入場料などを取らないこと(無料)
3. 演奏者に報酬が支払われないこと(無報酬)
入場料や出演者への報酬が関係する境界線
上記の3条件のうち、1つでも欠けると手続きが必要になります。例えば、入場料が500円などの少額であっても「有料」とみなされます。また、入場無料であっても、ゲストとして呼んだプロの演奏家に謝礼を支払う場合は「報酬あり」となり、手続きが必要です。アマチュアの市民オーケストラやアンサンブル団体が定期演奏会を行う際は、この3条件をクリアしているかどうかを必ず確認しましょう。
発表会で講師が演奏する場合の注意点
音楽教室の発表会は、少し判断が難しいケースです。一般的に、生徒が演奏する場合は「教育目的」や「非営利」の側面が強いですが、講師が模範演奏をする場合、それが「教室の宣伝(営利活動)」の一環とみなされることがあります。特に、大手の音楽教室や事業として行っている教室の発表会では、基本的にJASRACなどの管理団体への手続きが必要になると考えておいた方が安全です。
JASRACへの申請が必要になる具体的なシチュエーション
「チケット代を取る有料コンサート」「プロを呼んで謝礼を払うイベント」「企業が主催する販促イベントでの演奏」などは、確実に申請が必要です。申請は、JASRACのオンラインシステムなどで行います。手続きを忘れると、後から無断利用として請求が来ることもあるため、主催者は企画段階で「著作権料がかかるかどうか」を予算に組み込んでおくことが大切です。
楽譜のコピーはどこまで合法?レッスンや練習での取り扱い

バイオリンの練習に欠かせない「楽譜」。紙の楽譜をコピー機で複製する行為は、日常的に行われがちですが、実は著作権侵害のリスクが非常に高いエリアです。
自分が買った楽譜を練習用にコピーする
自分が購入した楽譜を、書き込み用や譜めくりをしやすくするために1部だけコピーして使うことは、「私的利用」の範囲内として認められるのが一般的です。原本を大切に保管し、コピーを譜面台に置くこと自体は問題ありません。ただし、このコピーした楽譜を、練習が終わった後に友人に譲ったり売ったりすることは違法です。
生徒に楽譜をコピーして配るのは違法?
先生が1冊の楽譜本を購入し、それを人数分コピーして生徒に配る行為は、明確な著作権違反(違法)です。 これは、本来売れるはずだった楽譜の売り上げを阻害し、作曲者や出版社の利益を損なう行為だからです。レッスンで使用する場合は、原則として生徒一人ひとりが楽譜を購入する必要があります。
タブレット楽譜(電子楽譜)の共有について
最近はiPadなどのタブレットで楽譜を見る人も増えています。自分が購入したPDF楽譜を自分の端末に入れるのはOKですが、そのデータをAirDropやメールなどで他人の端末に送ることは「複製権」や「公衆送信権」の侵害になります。デジタルデータは劣化せずにコピーできてしまうため、紙以上に厳しく管理する必要があります。
絶版になった楽譜ならコピーしても良い?
「もう売っていない(絶版)楽譜だからコピーしてもいいだろう」と考えるのは危険です。絶版であっても著作権の保護期間内であれば、権利は生きています。この場合、出版社に問い合わせて「コピーの許諾」を得るか、国会図書館などの正式な複写サービスを利用する必要があります。勝手な判断でのコピーは避けましょう。
「弾いてみた」動画をYouTubeやインスタにアップしたい!

自分の演奏を多くの人に聴いてもらえる「弾いてみた」動画。YouTubeやInstagramなどのSNSに投稿する場合、著作権のルールは「私的利用」とは全く異なる仕組みで動いています。
JASRACと包括契約しているプラットフォームの仕組み
YouTube、Instagram、TikTokなどの大手動画投稿サイトは、JASRACやNexToneといった著作権管理団体と「包括契約」を結んでいます。これにより、ユーザーは個別に許可を取らなくても、管理楽曲を演奏したり歌ったりした動画を投稿することができます。つまり、「自分で演奏した音」であれば、著作権料はプラットフォーム側が代わりに払ってくれるのです。
音源(CDやカラオケ)を使う場合の「原盤権」
ここで最大の落とし穴となるのが、CDやダウンロード購入した音源をバックに流して演奏する場合です。曲(メロディや歌詞)の権利とは別に、録音された音源そのものには「原盤権(著作隣接権)」という権利があり、これはレコード会社などが持っています。包括契約ではこの「原盤権」まではカバーされていないことがほとんどです。
注意:市販のCD音源をそのままBGMにして演奏動画をアップすると、著作権侵害の申し立てを受けたり、動画が削除されたり、音が消されたりする原因になります。
自分で演奏した音源なら大丈夫な理由
上記の「原盤権」の問題をクリアするためには、伴奏も含めて「すべて自分で演奏する」のが一番安全です。ピアノ伴奏を自分で弾いて録音したり、友人に弾いてもらったりした音源を使うのであれば、原盤権は自分たちにあります。これなら、包括契約の範囲内で安心して投稿できます。
海外の楽曲やJASRAC管理外の曲には要注意
包括契約が適用されるのは、あくまでJASRACなどの管理団体が管理している曲に限られます。海外の一部の楽曲や、インディーズで管理団体に登録していない楽曲の場合、個別に許可を取る必要があります。投稿前に、JASRACの作品検索データベース「J-WID」などで、その曲が管理されているか、そして「配信」の項目が〇になっているかを確認することをおすすめします。
バイオリンのアレンジや編曲は自由にしてもいいの?

ポップスや映画音楽をバイオリンで演奏する場合、原曲のままでは演奏できないため、バイオリン用にアレンジ(編曲)をすることがよくあります。この「編曲」にも、実は著作権が関わっています。
著作者人格権に含まれる「同一性保持権」とは
著作権法には「著作者人格権」という、著作者の気持ちを守るための権利があります。その中の一つ「同一性保持権」は、「自分の作品を勝手に変えられない権利」です。厳密に言えば、作曲者に無断で曲をアレンジすることは、この権利の侵害になる可能性があります。
クラシック音楽(パブリックドメイン)のアレンジ
バッハやモーツァルトなど、著作権保護期間が終了した(パブリックドメインになった)クラシック音楽であれば、自由にアレンジして大丈夫です。ジャズ風にしたり、ロック風にしたりと、大胆な編曲を行っても法的な問題はありません。これがクラシック音楽が様々な形で演奏され続けている理由の一つです。
市販のポップスをバイオリン用に書き換える場合
著作権が残っているポップスなどをアレンジする場合、基本的には許可が必要です。ただし、実際の運用としては、「原曲のイメージを損なわない範囲」で、楽器の特性に合わせて音域を変えたり、伴奏をつけたりする程度の編曲であれば、黙認されていることが多いのが現状です。ただし、歌詞を勝手に変えたり、曲の雰囲気を著しく壊すようなアレンジはトラブルの元になります。また、アレンジした楽譜を販売する場合は、必ず許可と手続きが必要です。
著作権が消滅した「パブリックドメイン」を正しく理解する

音楽著作権には「保護期間」があり、一定期間が過ぎると著作権が消滅し、誰でも自由に使えるようになります。これを「パブリックドメイン(PD)」と呼びます。バイオリンなどのクラシック奏者にとっては非常に重要な知識です。
死後70年という保護期間の数え方
日本の著作権法では、以前は著作者の死後50年までが保護期間でしたが、2018年12月30日から「死後70年」に延長されました。原則として、作曲者が亡くなった翌年の1月1日から数えて70年が経過すると、著作権フリーになります。例えば、1950年に亡くなった作曲家の場合、以前の法律では2000年末で切れていましたが、現在は延長の対象になっているかどうかの確認が必要です(既に切れていたものは復活しません)。
戦時加算という特殊なルールがある作曲家
ここで注意が必要なのが「戦時加算」という特例です。第二次世界大戦中、日本と敵対関係にあった国(アメリカ、イギリス、フランスなど)の作曲家の作品については、戦争期間中の約10年分(正確には3794日など国によって異なる)を、通常の保護期間に上乗せしなければなりません。
これにより、「死後70年経っているはずなのに、日本ではまだ保護期間中」というケースが発生します。例えば、フランスの作曲家ラヴェルや、アメリカのガーシュウィンなどは、計算が複雑になるため注意が必要です。
まとめ:音楽著作権どこまで守れば安心?正しい知識で音楽を楽しもう
音楽著作権は「どこまで」という線引きが複雑に見えますが、基本のポイントを押さえておけば過度に恐れる必要はありません。
【記事の要点チェックリスト】
・私的利用:自分や家族だけで楽しむならコピーも録音もOK。
・SNS投稿:「私的利用」ではない。演奏動画はOKだが、CD音源の使用はNG。
・演奏会:「非営利・無料・無報酬」の3条件が揃えば手続き不要。
・楽譜コピー:自分が使う1部はOK。生徒や友人に配るのは違法。
・パブリックドメイン:死後70年経過で自由だが、戦時加算に注意。
バイオリンを弾く私たちにとって、素晴らしい楽曲を作ってくれた作曲家は恩人でもあります。著作権を守ることは、法律を守るだけでなく、音楽文化を支える作曲家たちへの「感謝」と「敬意」を表すことでもあります。正しいルールを知った上で、これからも胸を張ってバイオリンの演奏を楽しんでいきましょう。



